世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】鴻上尚史、佐藤直樹「同調圧力」

今年27冊目読了。作家・演出家の筆者と評論家の筆者が、対談形式で、日本社会はなぜ息苦しいのか、コロナ禍における人々の考え方、行動などを見つめながら解き明かしていく一冊。


もともと鴻上尚史の本は「空気を読んでも従わない」を読んで、非常に納得していたのだが、2020年に襲い掛かってきたコロナ禍での日本人の振る舞いを理解するという点で、非常に読みやすく、かつなるほどなぁと思わせてくれる。


標題は強く日本人が感じていることであるが、これについては「『同調圧力』を生み出す根本のメカニズムが日本特有の『世間』。『世間』の特徴は『所与性』と呼ばれる『今の状態を続ける』『変化を嫌う』」「『社会』というのは本来、変革できるもの。しかし、『世間』は所与で、なおかつ変革も何もできない、動かない、変わらない」と説明する。


コロナ禍で日本が陥っている状況について「コロナ禍の不況で苦しくなればなるほど、強く『世間』の『所与性』(変わらないこと、現状を肯定すること)を求めたのではないか」「コロナが怖い、確かにその通りだが、それ以上に、何かを強いられることが、そして異論が許されない状況にあることが、何よりも怖い」「コロナ禍といった未曾有の事態が世界を戦時に染め上げた。戦時に優先されるのは個人の権利よりも、為政者にとって都合の良い国益。戦時なのだからということで、市民の側が持つべき権利も、政府にとって都合の悪い問題も、すべて棚上げされてしまった」と鋭く指摘する。


では、日本の特殊性は何か。「日本においては、『世間』と『社会』の違いこそが、ありとあらゆるものの原理となっている。『世間』というのは現在および将来、自分に関係がある人達だけで形成される世界のこと、『社会』というのは現在または将来においてまったく自分と関係ない人たちで形成された世界」と述べる。


世間を構成するルールとしては「①お返しのルール②身分制のルール③人間平等主義のルール④呪術性のルール」があり、その特徴として「①贈り物は大切②年上が偉い③『同じ時間を生きること』が大切④神秘性⑤仲間外れをつくる」と指摘。
これが、何を引き起こしたか。「新自由主義と『世間』は本来異なる原理を持っているので、『世間』が過剰反応を起こし、多少は壊れかけたかもしれない『世間』が復活し、抑圧が強まり、息苦しくなった」「メールやLINEは人格評価のプレッシャーがかかる」「言霊の国なのに、言葉を信用していない」「家制度は家長がすべての権限を持ち、家族の構成員の生殺与奪権を握っているから、『世間』は、親が責任を取れという」「『正義の言葉』で自分を確立しようとすることが、同調圧力を背景にした自粛警察の原因のひとつ」と説明する。


では、どうすればよいか。「強い『世間』ではなく弱い『世間』に複数所属して自分を支えるとか、『社会』と気軽につながって自分を支えるとか、方法はある」「会社で得た強さは永遠ではないんだということを、退職後に気づくのではなくて、その前に気づいたほうがいい」としたうえで「日本が世界に先駆けて、一神教という強力な支えがないまま個人であるためにはどうしたらいいか、いままさに日本人はトライアルをしているんだ。苦労する意味がある試行錯誤だ」と大胆に提言する。


日本人の弱点として触れられている「我々日本人が批判ということに対して慣れていない」「日本人は『身分制のルール』があるため、他人を信用できるか否かは『世間』のなかでどういう地位や身分を占めるかによって判断してきた。これは、それを自律的に判断する能力が、日本では育たなかったことを意味する」「僕らは肩書とか立場とかでジャッジすることになれてしまっている。そこから抜け出さないと」は、本当にそうだなぁと感じる。


面白いし、参考になる。そんな中で、自分はどうすればよいか。「世間」に流されず、自ら人を見る、自分を見るという訓練を積むしかないだろうな、と感じる。失敗しても、それによって目が肥えてくる。実力をつけるには練習しかない。そして、それは意図的に行ったほうが身につくわけで。留意したいし、新書といえども非常にためになった。