世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】西内啓「統計学が最強の学問である」

今年83冊目読了。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教の著者が、データ社会を生き抜くための武器と教養を身に着けることを提案する一冊。


なぜ統計学が優れているか、については「どんな分野の議論においても、データを集めて分析することで最速で最善の答えを出すことができる」「エビデンスは議論をぶっ飛ばして最善の答えを提示する」として「統計リテラシーがなければ、ビジネスの問題と同様に社会や政治に関する問題についても、経験と勘だけの不毛な議論が尽きることはない」とバッサリ斬る。


科学的な実証、ということについて「科学とは白衣を着て怪しげな機械や薬品をいじくることではなく、正しいことを最大限謙虚に、そして大胆に掘り下げようという姿勢である」「科学的に実証するための手順のうち最も重要なアイディアが、ランダム化するという考え方」としたうえで、ランダム化の注意点として「人間が無作為らしく、あるいはテキトーに出した数字は、しばしばそれほどランダムではなかったりする」「世の中にはランダム化を行うこと自体が不可能な場合(現実)、行うことが許されない場合(倫理)、そして行うこと自体は本来何の問題もないはずだが、やると明らかに大損をする場合(感情)という3つの壁がある」と述べる。


そして、ビジネスで統計を使う上で意識すべきこととして「適切なサンプリングさえすれば、必要な情報を得るためのコストが激減する」「まず正しい判断に必要な最小十分のデータを扱うこと」を入口として挙げ、「データをビジネスに使うための問いは①何かの要因が変化すれば利益は向上するのか?②そうした変化を起こすような行動は実際に可能なのか?③変化を起こす行動が可能だとしてその利益はコストを上回るのか?」と提言。経験と勘を超えて裏ワザを見つけるために「①適切な比較を行うこと②ただの集計ではなくその誤差とp値(実際には何の差もないのに誤差や偶然によってたまたまデータのような差が生じる確率)についても明らかにする③目指すゴールを達成したものとそうでないものを比較する」べき、とする。


その他、一般則として述べているのは「紙とペンの統計学ばかりを教育されたために、時代の最前線で最善の答えを生み出し続けるITにより統計学のパワフルさを体感できていなかったことから、統計学に退屈なイメージが持たれている」「解析はそれ自体価値があるものではなく、それを活かして何を行い、どれだけの価値を得られそうかによって異なる」「統計学的な裏付けもないのにそれが絶対正しいと決めつけることとおマジくらい、統計学的な裏付けもないのにそれが絶対誤りだと決めつけることも愚か」「エビデンスとして最低限の信頼性しかないのは、専門家の意見と、基礎実験の結果」。このへんは留意しておきたい。


その主張には納得できるものの、いかんせん、専門的な統計に関する言葉ども(回帰係数の推定値、標準誤差、95%信頼区間、p値など)が全く理解できず、途中から全く頭に入ってこなくなってしまった…いったん、勉強し直す(というか、高校時代に適当に流していたので「改めて勉強する」くらいの気持ちだが)必要を感じた。正直、それ以上の理解は文系人間には厳しいなぁ…
そして、統計学は過去の延長線上で考える場合には最強なのは理解できるが、前例のない(=統計を取る土台が抜け落ちている)時代には、非常に苦しい。このへんは、変化の激しい時代を生きる者として、冷静に見極める必要があるだろうなぁ。


何にせよ、筆者の述べている「全力と最善は異なるのではないか」の指摘は重い。十分に留意したい。