世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ロバート・フリッツ「偉大な組織の最小抵抗経路」

今年69冊目読了。ロバート・フリッツ・インク社の創立者にして、創り出すプロセスの領域から組織、ビジネス、マネジメントで個人の生産性向上に取り組んでいる著者が、リーダーのための組織デザイン法則をまとめた一冊。


ぶ厚い本で、その中身も実に重厚。「最も大切なことは、人も組織も、社会や経済のシステムも、ほとんど何から何まで構造によって支配されている」「現場で見失われていることが多いリーダーシップの特質は、矛盾するプレッシャーの中で、はっきりと態度を表明し、組織にとって最も重要な価値と志を大事にする能力」と述べ「最小抵抗経路の基本原則として、1)エネルギーは、最小抵抗経路に沿って進む。2)根底にある構造が、最小抵抗経路を決める。3)私たちは、新しい構造を創り出すことによって、最小抵抗経路を決められる」と洞察している。


読み始めたときには、なかなか理解ができなかったのだが、「緊張解消システムが単純な場合は、緊張構造が生じる。ところが、ふたつの競合する目標をめぐってふたつの緊張解消システムが存在すると、事態は複雑となり、葛藤構造が生じる」「構造は、競合する目標の間に均衡をつくり出そうとする。一方の目標に近づくと、構造は均衡を取り戻すために、自動的に他方の目標へと向かう。そうやって揺り戻しが起こる」「葛藤構造においては、望みを満たすことが最大の不均衡状態を生み出す。緊張状態においては、望みを満たすことで均衡状態を生み出す」「自分の組織における揺り戻し事例を観察することによって、競合する緊張解消システムが形成する葛藤構造を認識できるようになっていく」のあたりの記述で、ようやく理解できた。
ふたつの相反する目標が、どちらかを推進しようとすると、反撥する力を出すことによって、バランスしてしまい、前に進めなくなってしまう。競合する目標を「目標と手段」という形に整理する(踏ん切りをつける)ことによって、バランスの罠を脱する、ということだ。これ、ゴムで右の目標と左の目標から引っ張られている、という例えをしたイラストがイメージしやすい。どっちに行こうとしても、逆のゴムがバランスさせようとしてしまい、どちらかに寄りつけない。まさに、立ち往生の状態であり、確かに組織にとって大きな罠だと痛感する。


そもそも「構造とその力学を使えることこそが、組織の変革を長期的成功にしていくために必須の力」としたうえで、組織構造の法則として「1)組織は揺り戻すか、あるいは前進する。2)揺り戻す組織では成功は相殺され、前進する組織では成功が長続きする。3)組織の構造が変わらないと、組織の行動は元に戻っていく。4)組織構造を変えれば組織行動は変わる。5)組織を緊張構造が支配するとき、組織は前進する。6)組織を葛藤構造が支配するとき、組織的な揺り戻しが起こる。7)組織構造が不適切な場合、直すことはできない。その代わり、適切な構造に移行できる。8)上位の組織化原則が不在だと、組織は揺り戻す。上位の組織化原則が支配すれば、組織は前進する9)組織の支配的な価値は、競合する他の小さな価値を追い払う」とする。正直、これはかなり目から鱗だ。システム思考なども少しかじってはいるものの、ここまでズバリと述べられるとインパクトが大きい。


組織の特性については「不均衡状態が構造に内在すると、構造は均衡を取り戻そうとする」「ぶら下がった目標には、上位目標を支える戦略的な役割がある。目標間のつながりが最小抵抗経路を形成する」「本物の緊張構造を確立するためには、目標に対する現在のリアリティを正確に知り、表現する必要がある」「創造志向になると、私たちは従来の計画プロセスを離れて、緊張構造によって前進する勢いを得られる」「構造アプローチには空間的な思考が必要となる。通常の直線的思考ではなく、複数の単位で思考する」と指摘する。


リーダーに求められることは「どんなにスピードが求められ、プレッシャーがかかっても、一瞬立ち止まって、自分は何を求めているのか、自分はいまどこにいるのかを自問自答する」「自社のサービスを購入しようと顧客を動機づけるものは何かを問う」「コミュニケーションによって、目標、志、価値、社会規範、仕事をともにする経験、将来への希望、人の心を調和させる」「できるだけ引き継ぎを少なくし、手順を少なくする」「1)望む成果を定義する2)今のリアリティを分析する3)プロセスをデザインする4)新しいプロセスを実行する」「必要なものは、真のビジョン、真のビジネス戦略、作業量と生産能力についての真の理解、真の決意、緊張構造の共有、強靭な人格」とする。


一般則として心に留めたいことも多い。「顧客は、付加価値で購買を決めたりなどしない。価値そのもので決めるのだ」「優れた戦略は固定的なものではなく、生き生きとしたダイナミックなもの」「偉大な組織は、リアルな価値とリアルな夢を持っている」「組織の統制は、統一指針×実務能力×リーダーシップの掛け算で生まれる」など、素晴らしい指摘。


同じ中心軸を、あらゆる切り口から繰り返し述べている、ようにも見える。しかし、その分、非常に骨太な筆者の信念を感じるし、それによって見えなかったものが見えてくる体感アリ。なかなか手強い一冊だが、その労を費やして読むだけの価値は十分にある。いや、寧ろ定期的に読み込むべきなのかもしれない。良書だ。