世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】大竹敏之「間違いだらけの名古屋めし」

今年109冊目読了。名古屋のことだけを書く、自称”名古屋ネタライター”の筆者が、名古屋めしの歴史を紐解き、誤解を指摘する一冊。


名古屋には2度住んでいたので、なかなか面白く読める。それに、知らないことが多くてびっくり。


名古屋めしの特徴で、観光コンテンツの価値を高めるものとして「種類が多い、ここでしか食べられない、地元の人が食べている」。名古屋めしという言葉は「2001年、名古屋の飲食店グループ『ZETTON』の創業者・稲本健一さんが考案。東京で“名古屋発”をアピールするために採用した呼び方」というのはちょっと面白い。


それぞれの名古屋めしのルーツもまた興味深い。「味噌煮込みうどんは、小麦粉を練った団子状のものを鍋に入れて煮込む家庭料理がルーツといわれる」「味噌カツは、戦後の屋台でお客がどて煮の鍋に串カツを浸して食べたのがルーツといわれる」「ひつまぶしは、宴会料理の最後にうなぎを出す際、取り分けやすいようにうなぎを細かく刻み、最後にさっぱりと〆られるようにお茶漬けにした。丼ではなくおひつを使うようになったのは出前の際に割れる心配がなくなおかつ軽いから」「手羽先は居酒屋『風来坊』発祥で、きっかけは発注ミス。名物・ターザン焼の丸鶏の注文が入っておらず、しかたなく代用として手羽先を常連に同じ調理法で出したところ大評判に」「きしめんは、名古屋城築城の際に集まった職人のために作られたという逸話が有名」「台湾ラーメンは、昭和40年代に台湾料理店『味仙』の創業者が故郷の郷土料理・担仔麺を激辛にアレンジした」「あんかけスパは、昭和30年代にホテルのコックだった故・横井博氏がイタリアの家庭料理をヒントに名古屋人の好みに合う味をと開発」「小倉トーストは、大正後期、名古屋市中区にあった甘味喫茶『満つ葉』で、常連客がぜんざいにトーストをひたして食べていたのをヒントに商品化された」「ういろうは、室町時代に元から帰化した陳外郎外郎は薬を扱う役職名)が売り出した漢方薬外郎薬、その口直しに添えた菓子がいつしかういろうと呼ばれるようになった。東海道新幹線開業で、青柳総本家が車内販売を行ったことで、全国の人が名古屋のお菓子として買い求めた」あたりは知らないことだらけ。
中でも面白いのは「モーニングの発祥は一宮市豊橋市一宮市は繊維の町で、ガチャンガチャンとやかましい工場内では商談にならず、喫茶店が町工場の応接室になった。他方、豊橋市では、駅前に飲み屋街が広がり、そのうちの一軒が、夜勤明けでコーヒーを飲みに来てくれるスナックやキャバレーの従業員に朝食代わりとなるトーストをつけた」は、なるほどと思う。


名古屋めしと名古屋人の精神性にも触れる。「名古屋は、80年~90年代には東京のメディアからネタにされた。『文化不毛の地』『日本三大ブス産地』『名古屋飛ばし』など」。それに対して「『しょうがない』『勝手にいわせときゃええわ』という姿勢が、結果として地域の文化に大いなる誤解を招き、論拠に乏しいバッシングを招いた」。
それが、時代を経て「全国のご当地グルメの注目度が高まる中で、名古屋の食がその代表格としてクローズアップされたきっかけは、2005年の愛知万博」「『名古屋めし』は『名古屋城』と並ぶ名古屋の二大観光コンテンツ」となったのは、2002年と2017年に名古屋にいた経験からすると、納得だ。


意外だったのは「名古屋めしは味が濃い理由として、豆味噌のうまみ成分が多いこと(米味噌、麦味噌と比べておよそ2倍)、たまり醤油のうまみ成分が多いことがある」。ちなみに「味噌の種類は二通りの分類があり、『豆味噌』『麦味噌』『米味噌』『合わせ味噌』は減量によって分類。『白味噌』『淡色味噌』『赤味噌』は色による分け方。豆味噌は長期熟成なのですべて色が濃く、赤味噌。他方、米味噌にも赤味噌はある」は知らなかった…


筆者が「名古屋は国内でも異質のように見えて実は典型的な日本らしさを凝縮した町。食に関しても、名古屋めしは風変わりのようでいて、実は日本ならではの“食の魔改造”を積極的に進めている。すなわち日本らしさが反映された食文化」と述べるのは、いささか我田引水の感が否めない。
しかし「どの土地にも歴史や風土に根ざした固有の文化があり、それを知ること、体験すること、尊重することこそが、その文化を守ること、継続・発展させることにつながる。これは旅行者はもちろん、何よりその地域に住む人にこそ常日頃意識し実践してもらいたい」「多様性の尊重が叫ばれる昨今だが、まず自らを理解することが、他者への理解、尊重の第一歩」という主張は、ネタ本なれども、けっこう核心を突いていると思う。名古屋めしに興味がある人は一読の価値あり。