世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】安宅和人「シン・ニホン」

今年100冊目読了。慶応義塾大学環境情報学部教授、ヤフーCSO、データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長の筆者が、AI×データ時代における日本の再生と人材育成について展望する一冊。


評判は知っていたので、ぜひ読みたいと思っていたが、実際に読んでみると、本そのものよりもはるかにぶ厚い中身に圧倒される。


これからの時代の変化に向き合うために「情報の識別、予測、目的が明確な活動の実行過程はことごとく自動化していく」「すべての変化は桁で考える必要がある」「連続的であるにもかかわらず、ちょっと時間がたつと想像を絶する変化になってしまう、これが指数関数的な変化の本質」「計算機×アルゴリズム×データ=AIということになる。データとAIは表裏一体なのだ」とし、その影響として、ビジネスの変化は「1.すべての産業がデータ×AI化する。2.意思決定の質とスピードが上がる。3.状況把握から打ち手まで1つのループになる。4.集合知的なAIを作れるかのゲームになる。5.マッシュアップエコノミーの時代になる。6.事業及び収益構造が二重になる。7.ヒューマンタッチがより重要になる」と予測し、これから必要となるものとしては「未来は我々の課題意識、もしくは夢を何らかの技・技術で解き、それをデザインでパッケージングしたものと言える。つまり、未来=夢×技術×デザイン」と述べる。


日本の現状については「我が国の新卒層の課題は、基本的な問題解決能力の欠落、数字のハンドリングの基本が欠落、分析の基本ができていない、基礎的な統計的素養がない、情報処理・プログラミングについての基本的理解がない」「技術革新や山号革新の新しい波は引き起こせず、乗る事すらできなかった。企業価値レベルでは中韓にも大敗。大学も負け、ヒトも作れず、データ×AIの視点での要素のいずれも勝負になっていない」「我が国はかなり立派な額の予算を組みながら、その多くがシニアと過去に使われている」「現在生きる人の幸福が未来と未来の世代を犠牲にすることによって成り立っているのであれば、明らかにマネジメントの誤りだ」とズタボロに、ありていに描写する。
そのうえで、日本の勝ち筋として「●すべてをご破算にして明るくやり直す●圧倒的なスピードで追いつき一気に変える●若い人を信じ、託し、応援する●不揃いな木を組み、強いものを作る」と、過去の歴史を紐解いて喝破する。
今後を創り出すためには「最低賃金の見直しだけでなく、働ける年齢の方々には、スキル刷新のためのトレーニング環境を整備し、やる気のある人からどんどんすくいあげていく。並行して大人への心の教育も行う必要があるだろう」「データ×AI世界での成功のカギは、①さまざまなところから多様なビッグデータが取れ、いろいろな用途に使えること②圧倒的なデータ処理力を持っていること③これらの利活用の仕組みを作り、回すトップレベルの情報科学サイエンティスト、データエンジニアがいること」「0to1が価値創造の中心になる世界においては、単なる技術獲得だけでなく、夢を描く力、すなわち妄想力と、それを形にする力としての技術とデザイン力がカギ」「①年齢・性別による雇用差別を禁止する②シニアの活躍を生涯サポートする仕組みとテクノロジーを生み出す③生まれた時から年金を積み立て、運用する仕組みを構築する④技術の力で身体の問題を治す試みをさらに進める⑤尊厳死を合法化する」と提言する。


求められる人材については「人間社会で成功するか、面白いことを仕掛けられるかのかなりの部分は、運、根気、勘、そしてその人の魅力、すなわちチャーム」「まず身に着けるべきは、虚心坦懐に現象を見る力、そのうえで分析的、論理的に物事を考え整理する力」「知覚を広げる『経験』には、日常生活や仕事、学習などで新しいものを見聞きする『知的経験』、ヒトとの付き合いや関係、文脈特有のアナロジーから学ぶ『人的経験』、それらの知的、人的な経験の深さの上で、多面的、重層的にものを見て、関係性を整理する『思索』の3つがある」とする。
自分なりの知覚を鍛えるためには「百聞は一見に如かず。人から聞いたことを鵜呑みにしない。明らかに間違っていること以外は試してみる、手と足を動かし、頭も動かすことが大切」「人の感想は気にしないことだ。実際に自分がどう感じるか、どう考えるかを大切にしない人に自分なりの知覚を高めることはできない」と断言し、知的活動の具体的イメージとして「①近く経験の抽象化②コンテキストに応じた意味判断③言語的な施策④新しい知的理解の創造⑤課題を見究め解決する⑥質的な軸を整理する⑦点と点をつないで考える⑧夢を描きカタチにする⑨異質な世界を組み合わせる⑩俯瞰して意味合いを出す」と述べる。
そこから、未来を仕掛ける人を育てる6つのポイントとして「①意思、自分らしさ、憧れ②皮膚感をもって価値を生み出すことを理解する③サイエンスの面白さと意味への理解を深める④夢×技術×デザイン視点で未来を創る教育を刷新する⑤道具としての世界語を身に着ける⑥アントレプレナーシップの素養」と述べる。


筆者が目指す結論部分は、ややそれまでの議論からぶっ飛んでいる感じがし、違和感が残るが、シンプルに考えればアリ、という気がする(興味がある方はぜひご一読を)。


そして、基本的法則として述べている「その人の成長力は気づく力に真に依存している。この積み重ねこそがその人の本当の力になる」「あらゆる戦略は目指すべき姿の正しい見極めと現実の正しい理解から始まる」「我々に必要なのは感情論を脇においた、事実に即した議論だ」は、コロナ禍の今において、まさに必要な提言だ。非常に勉強になった一冊だ。ぜひ、一読をお薦めしたい。