今年91冊目読了。東京大学大学院教授で栄養疫学の第一人者である筆者が、氾濫し混乱する食と健康の情報を整理することを意図して食の真実を語った一冊。
データを駆使してさまざまな「常識?迷信?」に迫る、なかなか興味深い本だ。書きっぷりも非常に平易で好感が持てる。
健康的な食事については「野菜350gという数値にこだわるよりも、みんなが少しずつでも野菜を食べる量を増やしましょうと理解するのが正しい」「習慣的な卵の摂取量と心筋梗塞の発症率との間にはほとんど関連が見られず、1日あたり1個半くらいまでなら心配はなさそう」「高血圧、胃がん予防には塩辛い食品を避ける」と述べる。
ビタミンについては「ビタミンと聞くと、野菜や果物を思い浮かべるかもしれない。しかし、ビタミンCを除けば、多くのビタミンはむしろ、動物性食品に豊富」「夏バテに豚肉、ビタミンB1がなぜこんなに世の中に広まったのか謎。食事に神経質になりすぎるよりも、朝のラジオ体操でさわやかに目覚め、暑い午後は軽く午睡と決め込むほうが賢い」「我が国では、生活習慣病などに比べればビタミンの不足は現在ではまれ」とし「今の私たちに不足しているビタミンがあるとすれば、それは科学的な理解力や、総合的で客観的な判断力」と皮肉な結論を導く。
ミネラルについては「カルシウムは、多く摂る程よい、ではなく、少ないとこわい」。糖尿病対策については「体重管理、運動、減塩、飽和脂肪酸制限の順」「もっと果物を、ジュースではなく、食べることに意味がありそう」「早寝早起き朝ごはんは、十分に科学的見地に基づく」とする。
食事に関する話の注意点として「他の分野が本業であり専門であるはずの人による本が多すぎる」「リスクはゼロにできない」「思う、は事実ではなく根拠にならない」「一見研究めいた結果を見せて、こんなに効く!とうたった派手な発表や宣伝文句の裏に、平均への回帰あり」「統計データの見え方は、見せ方で変わる」と警鐘を鳴らす。
いずれにせよ、「人は、将来生命を左右するかもしれない大きな問題よりも、目の前の小さな快楽を選んでしまう生き物」であることを自覚し、「疫学研究の判断基準としては、理論に矛盾しない研究、できれば少しだけ古い研究を優先させるのがおすすめ。少しだけ古い研究はさまざまな角度から吟味されてきたはずで、その結果として現在よりどころとされているのであれば、それなりに信頼度が高い」「しっかりとした土台の上に築かれた研究だけが次の世の中を支える」と心に留めて、自らの栄養、食事リテラシーを高めていきたいと思わせる良書。