世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】セネカ「怒りについて」

今年85冊目読了。暴君(とはいえ、最初は名君だった)ネロに仕え、毀誉褒貶を味わったローマの哲学者が、怒りという破壊的な情念の分析と治療法を論じる一冊。


怒りというものについては「怒りとは、害を加えたか、害を加えようと欲したものを害することへの心の激動」「怒りはけっしてましなものではなく、その原因である過ちに劣っていることもしばしばである」「我々を怒りっぽくしているのは、無知か傲慢」「あなたがたに怒りと狂気がついてまわるのは、あなたがたがちっぽけなものを高く評価しているから」と分析する。


怒りの特性としては「制御を受け付けず、馴致不可能」「しばしば理性が忍耐を勧めるのに対して、怒りは仕返しを勧める。そして、最初なら対処できた災厄が、大きくなってわれわれをも巻き込んでいく」「怒りは贅沢より悪い。なぜなら、贅沢が堪能するのは自分の快楽であるのに対して、怒りが楽しむのは他人の苦しみだからだ」と指摘する。


怒りへの対処方法については「怒りの最初の勃発をただちにはねつけ、まだ種子のうちに抗い、怒りに陥らないよう努める」「怒りの最中に過ちを犯さない」「怒りに対する最良の対処法は、遅延である。怒りに最初にこのことを、許すためではなく判断するために求めたまえ」「たいていは戯れや上段に変えるのがよい」「われわれが起こっている相手の立場に立ってみよう。そうすれば、われわれを怒りっぽくしているのが自分に対する不公平な評価だとわかる」と提案する。


そのほか、怒りに関する洞察も鋭い。「懲罰は、冷静な判断によって科せられている場合、矯正の効果が増大する」「怒れる者の言辞を信ずべき理由はない。たとえその声音が大きく、威圧的でも、内側の心は怯え切っている」などは、本当にそのとおりだなぁと思う。


いわば、現代社会で述べられている「アンガー・マネジメント」のことなのだが、これがすでに2000年近く前から提唱されていたという事実にローマの実力を感じるとともに、人類の発達の未熟さ、そして先人の知恵に学べていない自分の矮小さを痛感させられる。


「むしろ、君は短い人生を大事にして、自分自身と他の人々のために穏やかなものにしたらどうだ」の諫言は、今なお心に突き刺さる。対処法だって、基本的には「怒りが湧き上がったら、時間を置く」というアンガーマネジメント(理解が違っていたらすみません)と同じであり、自分を鍛えないとなぁ…と痛感させられる。先人に学び、それを身に着けていく。本当に、大事なことだ。それに気づかせてくれる良書だが、ちょいと文章が重ったるいのが玉に瑕。