世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】浜矩子「グローバル恐慌」

今年109冊目読了。三菱総合研究所を経て同志社大学大学院ビジネス研究科教授となった筆者が、金融暴走時代の果てに何が起こっているのか、を紐解いて解説する一冊。

正直、経済については理解が極端に弱い自分にとっては、リーマンショックとそこに至る「地獄の道のり」が極めて分かりやすく解説されており、目から鱗だった。まさか、金本位制を放棄した「ニクソンショック」が遠因にあったとは…そして、そのあと、複雑怪奇に「部分最適」が絡み合いながら「全体不最適」に陥っていく様は、まさに人間の「視野の狭さ」が巻き起こす悲劇だ。

著者の指摘で、実に理解しやすいのが、モノとカネとの関係性だ。「モノとの密着度が高い金融は、なかなか時空を超えられない。(中略)だが、カネが独り歩きするタイプの金融ビジネスであれば、話は別だ。いくらでもグローバル展開が可能である。」よって、「モノという重石を欠いたカネは、ひたすら欲望に駆られて疾走し始めた。やがて疾走は暴走に転化し、その果てに恐慌がやってきた」と読み解く。そして、カネとモノの遊離は、金融自由化とIT化、金融商品が債権から証券化したことによる、と述べる。

「一人にとってのリスク分散は、実をいえば全員に対するリスク拡散」「恐慌の嵐吹き荒れる中で、方向感なき政策形成ほど危険なものはない」「保護は救済につながらず」「原点からかけ離れた位置に経済活動が飛んで行ってしまえばしまうほど、均衡点としての原点に立ち返ろうとする力学は過激化する」など、優れた言及が多く、非常に勉強になる。今なおキリキリ舞いし続ける世界経済において、一つの知見として持っておくべきだろう。

そして、今後の流れを見るうえで「人間の営みである経済活動のなかでも、金融は最も人間的な信用の絆で形づくられている。(中略)信用の巨大なネットワークの存在を前提にしてこそ、人間の営みとしての経済活動はここまで地球的な広がりを持つようになってきたといっても過言ではない」という原理原則をしっかり意識していきたい。

頭髪を紫に染めている、不機嫌そうなおばさんだなぁ(※Wikipediaによると「紫ババア」とのこと)と思っていたが、この著書を読んで、見識を新たにした(ところどころ、思想に共感しかねるところはあれども)。やはり、食わず嫌いはよくない、ということか。