今年44冊目読了。野球、格闘技、芸能を幅広く手掛けるノンフィクション作家が、日拓ホームフライヤーズの10ヶ月を今に蘇らせた一冊。
1973年にだけ存在したプロ野球球団、日拓ホームフライヤーズ。「不動産オーナーが、売名(広告宣伝)のために一年だけ保有したチーム」と思い込んでいたが、この本の生き生きとした描き出しによって、むしろ西村昭孝オーナーの改革意欲と資本投下に驚くばかり。
そして、改革派の西村オーナーが、プロ野球の守旧派勢力を前に気力を失い、果ては日拓とロッテが合併(!)、その後一リーグ化を目指す(!!!)、となるものの、日ハムへの売却に収まり、パ・リーグは存続するに至る。かくて、日拓球団は「奇をてらった七色のユニフォーム」のインパクトを残して、プロ野球から去る。
マリーンズファン、故にパ・リーグファンでもあるので、古い歴史を紐解くのもよかろう、と立ち読みしてみたら、とんでもなく面白い。歴史を後から評価するのは容易だが、その当時はみんな最善を尽くしているつもりなのがより悲劇的に見える。
西村オーナーと選手たちの奮闘、そして守旧派勢力の厚い壁。オーナーがイケイケ軍隊主義なこと(笑)を除けば、現代劇としても十分成り立つ。日ハムは東日本で売れていないので後楽園球場本拠地は譲れなかったこと(後に札幌に移転して大成功)、ロッテとの合併は立ち消えになったこと(後に西武との合併が浮上する)、1リーグ化が挫折したこと(後にプロ野球ストにまで至る)、日拓ホームの西村オーナーは徒手空拳で立ち向かったが日ハムの大社オーナーはしっかりフィクサーと繋がって足場を固めたこと(後にライブドア堀江社長と楽天三木谷オーナーがこの関係になる)、など、歴史の皮肉をここまで感じるとは…呆然とする。
そして、30年の時空を超えて、オリックス・近鉄合併からの1リーグ構想、スト、交流戦、パ・リーグの圧倒(交流戦も日本シリーズも)、となるのだが、「課題を解決しないと、歴史は手痛いしっぺ返しを喰らわす」をまざまざと見せつけられた思い。
…まぁ、そこまで感じるのは、読み手のワタクシの穿ちすぎなのだが(苦笑)、筆者の「当時の現場のリアリティ」を大事にする筆致が、ここまでの感慨を招いてくれた。
「現場感」と「今、ここ」。それこそが、この本の本質と感じる。虹色球団とは、七色のユニフォームと、東映フライヤーズと日本ハムファイターズを繋ぐという意味で著者がつけたとのことだが、ワタクシからすると、西村オーナーが夢見た美しい改革が虹のように幻に消え去る、と思えてしかたない。
パ・リーグファンは、必読書。セ・リーグファンは、ヤクルトまたは横浜、広島ファンなら是非。読売、阪神、中日ファンには理解できない世界が、ここにはある。