今年97冊目読了。昭和を駆け抜けた名作家の最初の著書にして、人間の暗部をどす黒く描き出す一冊。
これは凄まじい衝撃を残す一冊だ。「こうあるべき」との社会からの圧力と、それに対して自分の感性がまったくずれてしまっている悲劇。自分なりには何とかなるだろうと偽りながら、何ともならないという厳しい現実と向き合わざるを得ない苦境。多様性だ何だと言われつつも、今なお厳しく残る「こうでなければ社会的に無価値」という恐怖。それを、まざまざと見せつけてくれる。
話が「性」ということをテーマにしているので、そちらに意識が向きがちだが、この話の本質は「周囲と違う自分がどう生きていくか」ということではなかろうか。その後の三島由紀夫の極端な人生とその破滅的結末からしても、彼はこの調整が非常に厳しいものに終わった、と言わざるを得ないだろう。
そして、驚くのは、三島の凄まじいギリシャ・ローマ史への造詣の深さ。そこここに出てくる比喩が、半端なく深い!!その教養には、脱帽するしかない。今、これだけ知悉している人はどれだけいるだろうか?自分をはじめとして、21世紀の日本人の教養レベルの失墜に、天を仰ぐしかできない。
ともあれ、21世紀になっても全く輝きを失うことのない名著だ。これは、一読をお勧めしたい。