今年66冊目読了。ロシアの文学科としては異例の短編小説・戯曲に活躍の場を求めた鬼才が描き出す悲劇と、滑稽で支離滅裂なボードビル2編をまとめた一冊。
表題作「桜の園」は、流れゆく世の中に対応しきれない家族の悲劇を描き出す。チェーホフ先生の「ワーニャ伯父さん/三人姉妹」でも感じたが、今までの習慣にとらわれて変化できず、時代に飲み込まれていく様は本当に胸が詰まる。この感覚、若者には理解できまい。これもまた、「変化を恐れる」中年に対して、いみじくもダーウィン先生の「変化するものが生き残る」(進化論より)を証明していく形になっている。21世紀という変動の時代に生きるからこそ、一度は中年層が読むべき本だろう。
他方、ボードビル2編は、なんとも滑稽なやり取りが笑いを誘う。しかし、よくよく考えてみると、この手の「目先のことにとらわれて、全体を観られないがために不毛なやり取りをしてしまう」なんて、そこここに存在している。そう考えると、笑いはそのまま自分に跳ね返ってくるようにも感じ、いささか暗澹とした気分になる。
やはり、チェーホフ先生、人生と人間に対して(良くも悪くも)冷徹だ。