今年52冊目読了。SF小説の大家であるイギリス人の筆者が、タイム・トラヴェラーが飛んだ80万年後の世界で直面した数奇な体験を記した一冊。
そもそも、現在はドラえもんを例に出すまでもなく人口に膾炙している「タイムマシン」を、このような形で世に出していったということが凄い。さらに、未来旅行などでは都合よく水先案内人がいてこれこれはこうだ、と説明をする展開になりがちだが、「全く未知の世界に踏み込んでいく」という恐怖と好奇心のせめぎ合いも実によく描かれている。
80万年後の世界の設定もまた慧眼であり、怖ろしくなる。人類が分割されているというストーリーを読んでいると、「これ本当に19世紀に書かれたの?」と言いたくなるくらい、21世紀の現代に起きている社会的問題を先取りしているように感じられる。しかも、それぞれの人類の末裔のせめぎ合いもまた恐怖を招くのだが、むしろ21世紀においては現実の恐怖のほうが強い。筆者はいったいどんな知見をもってしてこんなストーリーを考え付いたのだろう…
巧みな描写に、的確な心理状態の表現。情景の描き方もありありと映像が浮かぶような筆致で、なるほどこんな小説が出てきたらさぞかし衝撃だっただろうな…と思う。そして、最後の結末もまたなかなか衝撃的で味わい深い。
これは、本当に一読をお勧めする。