世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】デービッド・アトキンソン「国宝消滅」

今年40冊目読了。元ゴールドマン・サックス金融調査室長にして小西美術工藝社社長の筆者が、日本文化と経済の危機を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
観光、文化財に関わるすべての人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『日本の文化財の現状は?』には「一生一度・短期滞在・低満足度の観光スタイルにより、文化財が投資対象となっていない。つくる機会の減少で、技術伝承されない負のスパイラル。人口減少・地方衰退で、保存が難しくなっている」。
『なぜ、日本の文化財は危機に陥ったのか?』には「若い世代に文化財を活用して教える努力を怠ってきた。専門家が、大切にするという思いが強すぎ、自尊心に凝り固まっている。文化財の価値を高め、観光を通じて経済に貢献しようという発想がない」。
『日本は文化財をどうしていけばよいか?』には「文化財を建築物の見物施設から、文化を見学・体感する施設にする。観光客の意見を尊重し、そのなかで自分たちに何ができるかを考える。職人の技術を消さないよう、文化財補修だけで職人を一年中養えるだけの仕事を文化財行政が用意する」。

なるほど、筆者は文化財保護と観光業の両面において「黒船」のような意見を持ち込んでくれているように感じる。人口減少、そして移民は嫌だという日本人の現状において、インバウンドを取り込むのは非常にパンチ力がある方法である。しかし、筆者指摘のとおり「日本人の一部が変えたくないことを文化と言い張り、問題解決を先送りする」「品格を語る人は、余計な仕事を増やしたくない人が多い」ので、なかなかうまくいかない。しかし、座して死を待つのではどうにもならず、「やるか、やらないか」しかないのだ。筆者も、その覚悟を問うている。

タイトルは衝撃的だが、「憂国の思いと救国への指針」が詰まっている。観光、文化財に関わる人は必読の一冊だ。