世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」

今年10冊目読了。とにかく有名だが、実際に読んでみると、色々と思うところあり。これは、クローン技術などが発達した今だからこそ一度読むべき本だなぁ。副題の「あるいは現代のプロメテウス」も、示唆がある。

フランケンシュタインあるある>
・筆者がわからない
 メアリー・シェリー、って、誰??という感じ。実際には、著作家の夫婦の娘であり、多才だったようだが、名前はまったく出てこないに等しい。
フランケンシュタインは、怪物の名前ではない
 実は、怪物には名前はついていない。じゃ、フランケンシュタインって誰の名前?となるが、実は、人造人間(怪物)を創り出した天才科学者、ヴィクター・フランケンシュタイン氏である。それが、いつの間にか怪物の固有名詞となってしまった。
・怪物は、とっても知的で繊細な心の持ち主
 怪物、というからには、きわめて暴力的で、知性の低い怖ろしい存在、というようにとらえがち。しかし、実際には、醜悪なのは見た目だけで、高い学習能力をそなえ、人の心を感じ取ることのできる設定となっている。

世代的に、藤子不二雄「怪物くん」に出てくるフランケンのイメージが強かったのだが、読んでみるとこれは想像を絶する名作だ。人造人間を登場させて、恐怖の世界を描いているのでゴシックホラーに分類されているらしいが、個人的には、繊細な心のひだを描き出した悲劇小説に分類したい。

あまり詳細を述べるとネタばらしになるので控えるが、希望なんていうものは実に薄っぺらいもので、絶望、恐怖、復讐という世の中を真っ暗にするような心のうねりがまざまざと描かれており、生きることへの悲哀を禁じ得ない。作品が発表された1818年当時から、人間そのものは(科学技術は別として、心の部分は)成長していないのに、クローンという実質的な怪物(=一般にいうフランケンシュタイン)を世に送り出してよいものだろうか。科学を扱う人間の倫理をしっかり考えるべきではないか。そんなことを思わずにはいられない。そして、改めてNHKで放映された「フランケンシュタインの誘惑~科学史 闇の事件簿~」を観たくなった。