世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】芦沢央「神の悪手」

今年105冊目読了。ベストセラー作家の筆者が、将棋をモチーフにした短編小説をまとめた一冊。


将棋好きの端くれとしては、非常に面白く読めた。全く別の短編でありつつ、微妙に絡んでいるのも粋である。ただ、将棋がわからない人に楽しく読めるかは??という気はする。


ネタバレ回避で、気になったフレーズを抜き書き


「『よろしくお願いします』と『負けました』は、絶対にきちんと口にしなければならない。特に負けたときにそれを自ら認める言葉を口にするのは、悔しく屈辱的だからこそ、欠かしてはならない儀式なのだ」
「どれだけ時間が経ち、他の地域でもたくさんの災害が起こり、周囲から忘れ去られようとも、ふいに甦る記憶はあまりにも鮮明で、自分はどこにも進んでいないのだと思い知らされる。長く長く歩き続け、遠くまで来たつもりでも、結局のところ抜け出せてなどいなかったのだと。それは時間が経つほどに大きく、強く自分を打ちのめす」
「怖いのは、ミスそのものよりも、ミスをしてしまったことに動揺してさらに悪手を重ねてしまうことだ」
「将棋は、秩序を崩すゲームだ。収まるべきところに収まって安定した駒たちを、一手一手、混沌に向けて動かさなければならない。一ターンに動かせるのは一つのみ。それを攻めに出るために使うのか、守りを固めるために使うのか。常に選択を迫られる。速度のバランスをわずかでも見誤れば、機を逃す。隙を咎められる。そして、まったくミスをしなかったと思えるような対局など、一度もしたことがないのだ」
「あきらめないことの大切さを教えたかった。投了した場面からでも、本当は挽回する道があったのだと指摘したかった。可能性にしがみつくのは恥ずかしいことではないのだと…」
「先に進みたいなら、自分を壊さなければならない。どうやっても後には引けないところまで自分を追い込まなければならない。おまえには恐怖が足りないんだ」
「負けましたと口にするたびに、少しずつ自分が殺されていくのを感じた。費やしてきた時間、正しいと信じて選び取ったこと、自分を自分たらしめるものが、剥ぎ取られていった」
「相手のミスを祈るほど愚かなことはない。相手に指してほしい手があるのであれば、そう指すしかないように誘導する。盤上に駒の利きを張り巡らせて、他の手を選べない状況へと追い込んでいく」