世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】阿部謹也「世間とは何か」

今年54冊目読了。一橋大学学長の筆者が、日本人の生き方を支配してきた世間という枠組みを、西洋の社会・個人という対比から見つめ直した一冊。


昨今、SNSによる批判の犯罪性などが取りざたされている中で、その枠組みを考えるのは異議があろう、と手に取ってみた。1995年の書籍ながら、過去の文学作品などを丁寧に紐解き、執拗なまでに細かく分析をしていくのは、さすが学究者というべき。他方、あまりのねちっこさに、読んでいて疲れる、というのもまた事実。


「世間を社会と考えている限り理解できない。世間は社会ではなく、自分が加わっている比較的小さな人間関係の環なのである」「世間の掟を守っている限り、能力の如何を問わず何らかの市は世間の中で保てる」「日本の個人は、世間向きの顔や発言と自分の内面の想いを区別してふるまい、そのような関係の中で個人の外面と内面の双方が形成されているのである」などの分析は非常に納得ができるし、それに影響されている自分もよく理解できる。


また、そもそもパソコン自体が普及していない時代の書籍ながら「陰湿な世間による捌きの背景には、神判を成り立たせている日本の『世の中』や『世』があった」の指摘は、まさにSNSの炎上やコロナ禍の自粛警察などにも一脈通じるところがある。


ただ、正直、この本をいまいち評価できないのは、結論として「日本人は一般的にいって、個人として自己の中に自分の行動について絶対的な基準や尺度をもっているわけではなく、ほかの人間との関係の中に基準をおいている」「日本人の寂しさの根源の一つに日本人が古来結んできた世間という絆がある」とするだけで、じゃあどうしたら?ということがすっぽり抜け落ちているところだろう。問題提起ということも大事だが、さすがに何の処方箋もなし、というのはいかがなものかと思う。


頭の整理には役立つが、未来の指針にはならない。そんなモヤモヤした読了感。