今年54冊目読了。フランスの短編小説の巨匠が残した、長編小説の名作。
ある貴族女性の一生を、若かりし頃から老いさらばえるまで追いかける一冊なのだが、これが波乱万丈、意に沿わぬことが数々降りかかってくる。小説だから、ということではなく、多かれ少なかれ人生というものは思うに任せぬものだ、という真理をがっちりと描き出しているし、それに向き合う主人公の心の葛藤と苦悩が豊かな情景表現とともに生き生きと感じ取れる。なるほど、さすがモーパッサン、長編を書いても素晴らしい。
主人公は、ともすれば流されるだけ、というようにも映るが、実際にはこまごまと苦悩しながら小さい範囲で何とかしようとしている。で、傍から見るのと自分が見えている世界との乖離って、こんな感じなんだろうな、と思う。苦悩と不安に取りつかれている人間は、そうそうダイナミックな行動は取れない。「外野からはなんとでも言えるよな」という感じになってしまうだろう。
これは、「社会に出る・結婚する前」と、「一定量、社会経験を積んだ後」の2回読むのがいい本、だろうな。それにしても、この圧倒的な筆致。モーパッサンを読まずに40余年生きてきたこと、本当に後悔しきり。そう思わせるだけのエネルギーが、この作品には込められている。
余談だが、原題は「La Vie」であり、なぜ「女の」が入ったのか、ここはよくわからない。確かに主人公は女だし、わからんでもないのだが、「人生(まさに原題どおり)」の普遍性、ということを考えると、どうなのだろう。まさか女性名詞だからこうなったわけでもあるまいが…