世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山内昌之「嫉妬の世界史」

今年90冊目読了。東京大学大学院教授の筆者が、歴史上で「嫉妬」という感情が果たしてきた役割を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
歴史好き、及び心理学好きの人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『なぜ嫉妬は生まれるか?』には「身近な人がほめられると、自分でもできる、または自分ができないから対抗心と名誉欲が生まれる。人間の感情コントロールのため、人のせいにする。自分の能力にそれなり自信のある人は、ひとたび職を得ると、自分の地位を他人に脅かされまいと必死になる」。
『人はどのような状況で嫉妬を受けやすいか?』には「武勇や知略が主君を畏れさせるほどの偉人はその身が危うい。不必要に気を遣いすぎると、かえってねたみやそねみを助長する。自分の作戦の正しさを周囲に押し付ける野戦指揮官は、平時にその才気が反感やねたみにさらされる」。
『嫉妬を避けるにはどうすればよいか?』には「思いがけなく運で成功したと言う。自ら色々な苦労をすすんでかぶり、仕事を買って出る。周囲の人々に感謝の心を忘れない。人との信義に篤く、ウソをつかない」。

とにかく、時間・空間ともに幅広い歴史事例を出して解説してくれるので、文庫本らしい読みやすさに加えて、十分な読みごたえがある。「うれいは多欲から生じ、人心はとかく予測しがたい」「世間では、佳い評判ではなく悪い風評こそ長続きする」などの言及も実に含蓄がある。

人間の真理・心理を抉り込む鋭さがあるが、わかりやすい筆致で厳しさは感じない。むしろ、優しく「生きるうえでの知恵」を教えてくれるような一冊。ぜひ、一読をお勧めしたい。

【読了】パトリシア・ウォレス「インターネットの心理学」

今年89冊目読了。メリーランド大学大学院で教授を務める筆者が、オフラインとは異なるネットでの人間心理を考察した一冊。

…なのだが。これが怖ろしく読みにくい。書いてあることの個別については「なるほど、なるほど」と首肯できる。しかし、総体として「じゃ、結局我々はどうすればいいんだ?」ということについて、全くといっていいほど処方箋がない。ばらばらなパーツとしては成り立つが、それが大きな樹木となっていない、という体感しか得られない。

「オンライン場面では、人は他者との相互作用場面で抑制がきかなくなり、たやすく平静さを失う」「面と向かったときの感情的知性は高くても、オンラインでは鈍感になる」「オンライン環境は集団極化を生み出しやすい」「脱抑制を促進するのはフラストレーション、匿名性、不可視性、物理的距離」「過信は、私たちが自己中心的な方法でものごとを見聞きすることで起こる」「人はものごとを単純化することを好む。いろいろな人間行動に潜む複雑性に取り組むよりも、人々にレッテルを貼るほうがはるかに楽だから」「ネットは、中産階級を空洞化し、二極化する。かつ、犯罪やハッキング、ストーキングなどの問題が深刻化する」など、個別の指摘は至当だ。

しかし。じゃ、どうするのか?という点については「私たちはみな、いましているコミュニケーションの向こう側に生身の人間、それどころか無数の人間がいることを忘れてはならない」しか処方箋がない。また、今後についても「確実に言えるのは、これからも大きな驚きが我々全員を待ち構えている」という「そりゃ、当たり前だろ」という事しか言及していない。

久々に、読むことに非常に疲れた。興味と暇があれば、止めはしないが、絶対に積極的にはお薦めしない。

【読了】ウーテ・フレーフェルト「歴史の中の感情」

今年88冊目読了。ドイツのマックス・プランク人間発達研究所感情史研究センター長の筆者が、歴史の中で「名誉」の感情が失われた経緯と、「共感」が創られてきた流れをまとめた一冊。

…なのだが。正直、久々に「読むだけで物凄くかったるい」。タイトルに惹かれて「これは面白そうだ」と図書館で借りたのだが、あにはからんや、非常につまらない。

「感情は、歴史と社会背景の中で変容する」。その主張には与する。しかし、その主張に至る事実の羅列が実に退屈で、かつ言葉の定義で言葉遊びをしているだけ、と感じられる。もちろん、母国語であるドイツ語を理解できないこと、その歴史背景を感覚的に捉えることができない、ということはあるのだろうが…

正直、チャレンジをお勧めしない一冊だ。

【読了】村山昇「働き方の哲学」

今年86冊目読了。文筆家の筆者が、物語を求める人間心理とその罠を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
人の語るストーリーに興味のある人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『人間はなぜ物語を求めるのか?』には「人間は時間的前後関係の中で世界を把握する。不本意な危機を理解するため、時間を遡って、それが自分に理解できる事情によって起こったことにしてしまいたい。世界に対するなぜ?という問いと、それへの回答が、ストーリーのストーリーらしい滑らかさを産む」。
『ストーリーの罠は?』には「ストーリーが滑らかでわかりやすいとき、ただの前後関係や相関関係を因果関係にこっそりスライドさせている場合がある。自分が納得するためなら、いくらでもがさつなストーリーを構築し、それが自分を苦しめる。多くのものを操作しようとすればするほど、うまくいかないできごとの数が増す」。
『生きるうえで留意すべきことはなにか?』には「ただひとつ操作の可能性があるものは、自己の選択。自分の感情の赴くままに行動することは選択がないので不自由。自分のストーリーの守護を一人称単数にすることが、ストーリー的苦境を脱する第一歩」。

自分の心理・行動の基本をなす「U理論」にも一脈通じるところがあり、非常にすんなり入ってくる。「人は伝えるべき内容があろうがなかろうが、言葉を発したい生き物」「人間は自分の行動の動機を、リアルタイムで意識できないことのほうが多い」など、なるほど納得!という記述が多いが、一番のカギとなるのは「他者は自己の欲求を満たすために存在・行動しているわけではなく、自己も他者の欲求を満たすために存在・行動しているわけではない」という認識。しかし、人間はどれだけ「周囲が自己の欲求を満たしてくれない」ことに、無理やりストーリーをこじつけ、現実を見ることから遠ざかり、感情のままに流されて苦労をしていることか。

構造を知ることで、脱出の可能性がでてくる。その意味で、読むべき一冊だ。新書でさらりと読める割に中身は重厚で、面白い。

【読了】千野帽子「人はなぜ物語を求めるのか」

今年86冊目読了。文筆家の筆者が、物語を求める人間心理とその罠を書き記した一冊。
 
〈お薦め対象〉
人の語るストーリーに興味のある人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★
 
自分の問いは3つ。
『人間はなぜ物語を求めるのか?』には「人間は時間的前後関係の中で世界を把握する。不本意な危機を理解するため、時間を遡って、それが自分に理解できる事情によって起こったことにしてしまいたい。世界に対するなぜ?という問いと、それへの回答が、ストーリーのストーリーらしい滑らかさを産む」。
『ストーリーの罠は?』には「ストーリーが滑らかでわかりやすいとき、ただの前後関係や相関関係を因果関係にこっそりスライドさせている場合がある。自分が納得するためなら、いくらでもがさつなストーリーを構築し、それが自分を苦しめる。多くのものを操作しようとすればするほど、うまくいかないできごとの数が増す」。
『生きるうえで留意すべきことはなにか?』には「ただひとつ操作の可能性があるものは、自己の選択。自分の感情の赴くままに行動することは選択がないので不自由。自分のストーリーの守護を一人称単数にすることが、ストーリー的苦境を脱する第一歩」。
 
自分の心理・行動の基本をなす「U理論」にも一脈通じるところがあり、非常にすんなり入ってくる。「人は伝えるべき内容があろうがなかろうが、言葉を発したい生き物」「人間は自分の行動の動機を、リアルタイムで意識できないことのほうが多い」など、なるほど納得!という記述が多いが、一番のカギとなるのは「他者は自己の欲求を満たすために存在・行動しているわけではなく、自己も他者の欲求を満たすために存在・行動しているわけではない」という認識。しかし、人間はどれだけ「周囲が自己の欲求を満たしてくれない」ことに、無理やりストーリーをこじつけ、現実を見ることから遠ざかり、感情のままに流されて苦労をしていることか。
 
構造を知ることで、脱出の可能性がでてくる。その意味で、読むべき一冊だ。新書でさらりと読める割に中身は重厚で、面白い。

【読了】立花隆、佐藤優「僕らの頭脳の鍛え方」

今年85冊目読了。元・記者にして作家の筆者と、元・外務省主任分析官にして作家の記者が、必読の教養書400冊と頭の鍛え方を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
現代社会を生きるのに危機感を覚えている人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『読書の特性は何か?』には「読むことで回路が開ける、人間をつくるもの。疑似体験の力により、現実に立ち戻ることができる。古典には、知の共通基盤としての役割がある」。
『人間の負の行動特性は?』には「検証すべき情報が厖大だと、いちいち自分で検証していたら疲れるので、とりあえず指揮者の言っていることを事実として受け止める。嫌な状況が続くと、悲惨な結果を招いてもいいから早く終わってほしいと思うようになる。物語を唯一の真実と信じるようになると、とんでもない方向に行ってしまう」。
『今の時代、留意すべきことは何か?』には「大事なことは、知へのモチベーションを高められるかどうか。教養とは、今、自分が遭遇している未知の問題から、構造をテキストから読み取れる力。歴史は常に反復する」。

「日本人に賭けている最大の教養アイテムは地政学」「芸術的感覚がないと、政治も経済もわからない」「受験勉強は、記憶と条件反射だけであり、その枠組みから抜けられなくなるという観点で、やりすぎると頭が悪くなる」などの面白いコメントが、すべてぶ厚い読書に支えられた中身であり、新書ではあるが本当に重厚な中身。そして、何より400冊のお薦め書籍リストが超・秀逸。これ全部読んだら、少しでもこの先人たちに近づくことができるのだろうか…

「読書」と「それに基づき、実世界を自分の頭で考えてみる」。この2つの往来により、脳を鍛えていく必要があろう(「脳トレ」なんて簡単な言葉で深みある思考ができるわけもない)。お薦めの一冊だ。

【国宝】花蝶蒔絵挟軾

藤田美術館所蔵、黒漆塗金銀蒔絵、平安時代
 
挟軾とは、肘をかける脇息のこと。奈良の薬師寺の鎮守・休ヶ岡八幡宮伝来とされ、祭神の御料であった可能性もある。
 
花と蝶を研ぎ出している。文様には奈良時代の遺風が感じられ、平安時代前期の蒔絵の遺例として貴重。
 
ぱっと見は「なんだこの古びた道具は?」というような感覚に陥る。国宝は、歴史的経緯、その文化的背景などが重厚に関わってくる物件もあるため、やはり「勉強をしてから実際に拝見する」という流れが必要になってくる。「知識が大事」。しかし、「知識におぼれすぎない」。その両方で、感性を鍛えていくべきだろう。