世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【ツナ缶は使える。】

まだ子供たちは弁当や給食が始まっていない。そして、嫁が買い物に出かけているので、リリーフ昼食。

<昼食>
・ツナとしめじの卵とじ丼
・大根と玉ねぎの味噌汁


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所要40分。ツナ缶は、保存がきくので、「タンパク質をどうやって摂るか」という悩みを考えないで使えるので実に便利。卵との相性もいいので、使いやすい。今回は、得意の親子丼の味付け(酒1、みりん1、醤油1の比率)でいったので、自分で言うのもなんだがまぁまぁ安定の旨さ。子供たちも「おいしい」と好評を博することができた。

ちゃちゃっと作る。決してとても美味なものが作れなくても、これは結構貴重な能力、な気がする。

【読了】H.G.ウェルズ「盗まれた細菌/初めての飛行機」

今年53冊目読了。SF小説の大家であるイギリス人の筆者が書き記した、さまざまな短編小説を集めた一冊。

表題作をはじめとして、どれもこれも、「ちょっと不思議な世界」に踏み込みつつも、現実に即しているために「あ、少しわき道に入ったらそんなこと起こるかもしれない」と思わせられる。だが、そこにおいても、筆者が描き出すのは人間の愚かさと、その哀しい業。財産欲、名誉欲、支配欲…こういったものに駆られて、自身はおおまじめなのに、むしろ周囲から見ると滑稽な動きをし続けるというストーリーは全ての小説に通奏低音として流れている。

なんとなく、星新一の「ショートショート」の源流となっているようにも感じるが、こちらのほうが人間観察とその哀しさを表していることから、味わい深さはこちらに分があるように感じる。

ひとつひとつはさらりと読めるので、ハードルは低いと思う。ちょっとした時間つぶしにはもってこい、だろうな。それにしても、本当に、光文社古典新訳文庫は優秀だ。このシリーズ、全部読破したいくらいだ(←無謀)。

【読了】H.G.ウェルズ「タイムマシン」

今年52冊目読了。SF小説の大家であるイギリス人の筆者が、タイム・トラヴェラーが飛んだ80万年後の世界で直面した数奇な体験を記した一冊。

そもそも、現在はドラえもんを例に出すまでもなく人口に膾炙している「タイムマシン」を、このような形で世に出していったということが凄い。さらに、未来旅行などでは都合よく水先案内人がいてこれこれはこうだ、と説明をする展開になりがちだが、「全く未知の世界に踏み込んでいく」という恐怖と好奇心のせめぎ合いも実によく描かれている。

80万年後の世界の設定もまた慧眼であり、怖ろしくなる。人類が分割されているというストーリーを読んでいると、「これ本当に19世紀に書かれたの?」と言いたくなるくらい、21世紀の現代に起きている社会的問題を先取りしているように感じられる。しかも、それぞれの人類の末裔のせめぎ合いもまた恐怖を招くのだが、むしろ21世紀においては現実の恐怖のほうが強い。筆者はいったいどんな知見をもってしてこんなストーリーを考え付いたのだろう…

巧みな描写に、的確な心理状態の表現。情景の描き方もありありと映像が浮かぶような筆致で、なるほどこんな小説が出てきたらさぞかし衝撃だっただろうな…と思う。そして、最後の結末もまたなかなか衝撃的で味わい深い。

これは、本当に一読をお勧めする。

【読了】高田博行「ヒトラー演説」

今年51冊目読了。学習院大学文学部教授の筆者が、ヒトラーの演説が巻き起こした熱狂を、150万語のビッグデータから真実を読み解くべく書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
プロパガンダ衆愚政治への警戒感を持つ人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
ヒトラーは、演説で何を狙ったのか?』には「本能的なものを呼び起こし、奮い立たせ、先導する。送り手が流すいかなる情報も、あたかも自発的であるかのように受け手に受け入れさせる。群衆の心を動かすため、理性に訴えず感情に訴える」。
ヒトラーの演説の言語的特徴は?』には「記憶に残るため、対比・繰り返し・意味をずらす・度数をずらすテクニックを使う。大衆の注意を惹くため、意図的に従来の言い方を避けて新しいことばと概念で話す。聴衆の反応をフィードバックしながら演説を修正していく」。
ヒトラーの演説の動作的特徴は?』には「いちどジェスチャーをはじめたら文が終わるまでジェスチャーをやめない。内的な者への信頼を示すとき、胸に手をやる。敵対者への糾弾、同胞への擁護・共感の際に指さしをする」。

ヒトラーは、原稿を用意せずキーワードのメモを作成したとのことで、まさにライブ感を大事にしながら話していたことがよくわかる。また、先天的なセンスを技術指導によってさらに高めていったことも空恐ろしいくらいにわかる。驚いたのは、「ラジオと映画というメディアを獲得した時から、演説の威力が下降した」ということ。これは「受け手側に聞きたいという強い気持ちがなければ、演説の力は発揮できない」と著者が述べているとおりなのだが、後知恵での感じ方(戦争中、ドイツはずっと熱狂し続けた)は事実と乖離している、というのは実に興味深い。

稀代の演説家(ことの善悪はともかく、その力がすさまじかったことは間違いない)、ヒトラー。思想面ではなく、このような切り口で描き出したことはインパクトがある。そして、「知的水準を対象の中で最も頭の悪い者の理解力に合わせ、プロパガンダを実現する」というヒトラーの罠に、21世紀になってもなお、民衆は陥る可能性があるのが空恐ろしい。これは一読をお勧めしたい。

【読了】松村真宏「仕掛学」

今年50冊目読了。大阪大学大学院経済学研究科准教授の筆者が、人を動かすアイデアのつくり方を書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
人が動いてくれずに困っているすべての人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『人間の行動の特性は?』には「楽をしたいのは人間の性。私たちが直面する多くの問題は私たち自身の行動がつくり出している。どんな問題にでも自分の得意な手法を使うことにこだわってしまう。」。
『仕掛の特徴とは?』には「こうしたほうがよい、と直接伝えず、ついしたくなるように間接的に伝えて問題解決を狙う。正論を阻害するものではなく、実現されない正論に対処するための代替的アプローチ。副作用として飽きる」。
『仕掛はどのように作ればよいか?』には「繰り返し観察される出来事や行動の理由を考える。子供を観察する。自分自身の行動を客観的に観察して内省する」。

非常にわかりやすい上にインパクトがあり、かつ実務への実装可能性が極めて高い。非常に秀逸であり、かつ読みやすい。これ、かなりパンチ力がある話だ。
仕掛の発想法として「仕掛の時間を転用する、行動の類似性を利用する、仕掛けの原理を利用する」を挙げたりしているのも素晴らしいのだが、何より集めた実例がとてもわかりやすい。この本は再読必須。何度も参考にしていきたいし、ぜひ、一読をお勧めしたい。

【業務手順と、知識の裏付け。】

決算時期は、仕事が張るのは仕方ない…そんな中、簿記を学び始めての決算で、感じたこと。

《ポイント》
●実践なき知識は定着し辛い。
世の中のテキスト類がなかなか理解できないのは、自らの実践とかけ離れているから(例えば、旅行社に勤めているのに「リンゴをいくつ仕入れた」という例題にはピンとこない)。自らの身近なことに置き換えられないと、なかなか知識は体感を伴わず、定着しない。

●納得は、理解を促進する。
ただ、知識と体感が一致すると、「あぁ、なるほど!!」「これ、そういう意味か!」と、納得に至る。これは脳科学でいうアハ体験であり、これ自体がめちゃくちゃ脳にとって気持ちいい。
それを感じると、そのインパクトとともに、一気に理解が進む。ので、この次元に至ることが大事。

《問題の所在》
●作業手順を覚えたことで満足してしまう。
よくありがちな「業務レベルチェックシート」は、「手順を覚えたか」という事しか見ない。なので、「理解した」というところまで落とし込めたかがわからず、シートの評価と実態が乖離する。また、教わる側も、「チェックがされればいいや」と、手順を覚えたことで満足してしまう。
勿論、まずは手順。しかし、そこをマスターしたら、次は「なぜ?」と考えながら、知識と体感を突き合わせて理解を深めていく必要がある。

少しずつ、しかし着実に理解を深める。その努力を怠っては、その仕事はAIに取って代わられてしまう。

自戒の念を込めて。

【読了】丹羽真理「パーパス・マネジメント」

今年49冊目読了。Ideal LeadersのChief Happiness Officerである筆者が、社員を幸せにする経営について書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
社員の「本当の」働き方改革を考えるリーダー
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★☆☆

自分の問いは3つ。
『経営は何に目を向けるべきか?』には「苦境より、楽しいことからイノベーションは生まれる。働き方改革の本質は、誰もが活躍するということよりも、誰もが幸せに働くこと。付加価値を高めれば、疲弊してまで時短を追求しなくとも生産性は上がる」。
『幸福であることの組織にとってもメリットは?』には「幸福な人は他社を助け、組織を護る。幸福な人は正しい判断ができる。幸福度が高い人は、エネルギーにあふれ、ストレスからの立ち直りも早い」。
『幸福を大事にするために、組織は何をすべきか?』には「個人の存在意義を大事にする。幸せを味わうため、より存在意義を強く意識して、その実現を目指すループを作る。組織の風土を変えるため、誰かが勇気をもって一歩を踏み出し、旗振り役になる」。

「仕事における幸せを形作る要素は、存在意義、自分らしさ、関係性、心身の健康」など、非常にいいことが書いてあるし、実際「働き方改革」の掛け声が全くいかがなものか?と感じられる現状においては、的確なところを突いている気がする。
しかし、「もともとそういう思想がある組織」であるか「組織トップ自身がそういう考え方を抱いている組織」以外については、この考え方や在り方を実装するのは極めて困難であり、事実、本書においてもそこに対する処方箋は描き切れていない(ゆえに、お薦めは★5なのに実用は★3)。

そして、「パーパス」という、人材開発、組織開発に知見を持つ人なら理解できるが、人口に膾炙しているわけでもない言葉を持ち出すと、組織改革は極めて難しい。お薦めな本ではあるのだが、そのへんが弱い。さらりと読めて、良書ではあるが。