世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ラッセル・フリードマン「正義の声は消えない」

今年93冊目読了。アメリカのノンフィクション作家が、反ナチス・白バラ抵抗運動の学生たちの活動の経緯と顛末をたどる一冊。


ナチス支配下のドイツにおいて、学生たちが抵抗した白バラ運動。その概要をまとめた本なので読んでみたが、ルビが振られているなど、実は子供向けだった…しかし、読みごたえは十分。


そして、そこここに、心に響くフレーズが出てくる。「恐怖心のない人は、ものごとをくもりのない目で見ることができます。でも、それが危険なことなのです」「子どもたちに教えるのは、とてつもなく疲れるわ。子どもたちに完全に合わせなきゃならないんですもの。自分本位の人にはとうていできない仕事だわ」「友だちだって信用できない…話の出来る相手かどうか見極めるのに何週間も何か月もかかった」「わたしたちが言ったり書いたりしたことは、多くの人達が正しいと思っていることです。ただ、ほかの人達にはそれを声に出して言う勇気がないだけです」のあたりは、現代社会にも一脈通じるところがある、と言えよう。


コロナ禍で、日本政府の右顧左眄っぷりに辟易している大人たちにとっては「はたして今の時代に、自分が正しいと思うことのために立ち上がる人などいるでしょうか」「わたしたちはみな自分の規範というものを内に秘めている。ただ、それをつきつめて探していないだけ。たぶん、もっとも厳しい規範だから」という言葉は非常に重く響く。言論の自由は保たれているからこそ、大きく声を上げ、行動していかねばならない。


そして、この本の良書たるゆえんは、最後の「白バラ抵抗運動と、それに殉じて首をはねられた人たちの話は、奇跡はほんとうに起こるということを、わたしたちに教えてくれる。わたしたちは今もなお、権力に対して真実を訴えている彼らの声を聴くことができる。だれもその口をふさぐことはできない」に尽きる。非常に平易な文章でさらりと読めるので、児童書とバカにせず、大人でもぜひ読んでいただきたい。