世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】本郷美則「新聞があぶない」

今年26冊目読了。朝日新聞研修所長、朝日ネット専務取締役を経てフリーランスジャーナリストとなった筆者が、新聞の陥っている苦境とそのバックボーン、そこからいかに回復するかを書き記した一冊。


内幕をよく知る人物だからこそ書ける、非常に高い問題意識の一冊だ。2000年の著書であるが、状況はむしろとことん悪化しているといってよい状態。インターネットと新聞の融合については黎明期に書かれただけあって、いちいちネットの説明が迂遠だったりするが、それは時代背景ゆえだろう。


なぜ新聞が国民の支持を失ってしまったかについては「日本の新聞は、情報流通を半ば独占的に支配し続けているうちに、日本的な官僚政治の風土ともからんで、さまざまな面で権力と狎れ合い、もたれあいと癒着の構造を固めてしまった」「新聞が『知っていて書けない』状況は、『情報源と記者の奇怪な一体感』と、よそ者をよせつけない特権的な『記者クラブの閉鎖性』の産物」「1つの新聞の中に、その新聞社の編集権のもとに制作されたページと、広告部門が広告営業の目的で制作したページが同居する姿は、読者に2つのスタンダードを押し付けることを意味する」と鋭く批判する。


ジャーナリズムのあるべき姿として「最初に、だが正しい方法で情報を手に入れることを誇りに生きている。ニュースの奥底に突き刺さり、懸命にニュースの裏側に到達しようとする。ジャーナリズムは、骨の折れる底の深い仕事であり、公平無私で、公明正大でなければならない」。そのためにも「新聞は外部の批判を謙虚に受け止め、自らを正すに厳しく、公明正大であらねばならない。社会的な使命に、頑固に忠実であってほしい」と述べる。


他方、「もともと日本の社会には、情報は安く手に入れるものという固定的な認識がある。そのような固定観念を長年にわたって人々に植え付けてきたのは、部数第一主義で安値の乱売を競ってきた新聞にも責任がある」と筆者は述べるが、ここまでネットで「情報はタダ」という認識が強くなると、新聞というメディアがどこまで存在意義を持つのか?と問われても、非常に難しいものがある。2000年当時においては「公権力をはじめ社会的な組織と、そこで行われていることの透明度は、民主社会の成熟度を測る有力な物差しの一つである。そして、社会の透明度を高めるのは、新聞・雑誌をはじめとするジャーナリズムのメディアの責務だ」という主張はそうであったろう。他方、2020年においては、誰もがメディアになれる状況であり、もはや「発言の自由度」のほうが大事であるように感じる。もはや、時代は戻れない。


一つ新聞の役割があるとすれば、メディアリテラシーを高める知的教育機能だ。そもそも、「これだけネットニュースがあふれると、どれを信じてよいのやら」となってしまう。玉石混淆の情報の渦から、なにを濾過するか。そこは、新聞が得意としてきた「編集権」の使い方であろう。従来の延長線上とは違ったダイナミックな発想が問われているように感じる。


とはいえ、新聞という実に閉鎖的な世界と、その構造的問題を明示した点で、この本は秀逸だ。さらに言えば、20年経っても、日本社会も新聞も未成熟なまま、というところが大問題であるのだが…