世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【国立博物館、料金値上げへ。】

ねずみの「夢の国」の値上げが発表となった20年1月30日、衝撃のニュースが飛び込んできた。日本を代表する博物館である東京国立博物館京都国立博物館奈良国立博物館の3館が、4月1日より常設展(平常展)の料金を値上げすることを発表したのだ。


国立博物館の中でも、東京・京都・奈良の3館は数多くの国宝を所蔵しており、日本の文化財保護の実務的最前線を担っていると言ってもいい。その3館が値上げ、ということはどういうことか。


1)ランニングコストすら賄えない実態。
驚くべきことに、来館者が増えている東京国立博物館ですら、ランニングコストすら賄えていない状況だという。これは文化財保護という観点から、極めて憂慮すべき事態である。文化財保護という重要な枠割を担っている国立博物館が、このような状況に陥っていては、文化財保護を行う職人にお金が回らず、職人の技術衰退→文化財の崩壊、というサイクルを招きかねない。この状況からすると、値上げしてでも保全の原資を確保する、ということは極めて大事だ。


2)多言語対応という課題。
もう一つの理由として、「多言語対応ができていない」ということが挙げられている。日本の文化財の中核をなす国立博物館の展示において、外国語対応は確かに貧弱だと感じていたので、これは同意できる。また、世界から「日本の文化財」を見に来た観光客に対し、日本独自・独特の文化をアピールする意味でも、この多言語対応は21世紀の人口衰退が不可避な日本国においては、是非もない選択だと感じる。


ということで、値上げそのものとしては「文化財保護、文化財価値のあまねく周知」という目的に則して、致し方ないものだと感じる。


●疑問:負担の「振り向け先」は相応なのだろうか?
しかし、値上げは一般枠(東京国立博物館においては、620円が1,000円に値上げ)のみ。70歳以上のシニアと高校生以下と18歳未満は無料のまま。これでいいのだろうか?
18歳以下の無料は大賛成。今後を担う子供たちが文化財に触れ続ける機会を確保することはとても有意義。しかし、70歳以上のシニア無料はどうなのだろうか。むしろ、次世代に文化を承継する義務がある人々であり、現在の人口構成、さらに言えば貯蓄状況を勘案すると、この層こそ、金を支払うべきと思う(見たい人は、金を払ってでも見るはずである)。受益者負担の考え方からしても、次世代に文化財を残していくという考え方からしても、シニア無料は肯んじない、というのが個人の感想である。


博物館法は、以下のとおり定める。
(入館料等)
「第二十三条 公立博物館は、入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはならない。但し、博物館の維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる。」


現状においては、原則論(対価を徴収してはならない)は無理がありすぎる。世界遺産、国宝どちらにおいても言えることだが「保全、保護には金がかかる」ということを、もっと認識していくべきだろう。