世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】村重寧「もっと知りたい俵屋宗達」

今年105冊目読了。東京国立博物館企画課長を経て早稲田大学文学部(美術史専攻)教授となった筆者が、アート・ビギナーズ・コレクションシリーズとして謎の芸術家・俵屋宗達についてまとめた一冊。


このシリーズは、写真が豊富で本当に読みやすいのだが、この本も期待通り。「琳派」の始祖ともいうべき俵屋宗達の美意識とその作品が、非常にわかりやすく説明されている。「彼の絵画は斬新であるが、決して突飛なものではなく、奇想でも異端でもない。むしろその路線の軸は平安以来のやまと絵の伝統様式に依拠したものであり、また型にはまった土佐派のお家芸とも違う、独創の手法で和様のもつ魅力を蘇らせた」という一本の軸を立ててくれることで、俵屋宗達の作品群を非常にわかりやすく見ることができる。


戦国末期から江戸初期にかけて、俵屋宗達本阿弥光悦が協力した作品がいくつも作られているということには、感動すら覚える。こんな天才同士が合作するなんて、本当に凄いことだ。そして、その凄さを今の今まで知らなかった自分の無知を恥じるしかない。やはり、人間は触発しあうことでさらに高め合う、ということなんだろうな。


また、水墨画についても「中国で発達したモノクロームの絵画。そこには著色画にはない抽象性、内面性が豊かに表現される。この高尚な墨の芸術を日本人の感覚、嗜好の中に引き寄せ、親しみやすい『和』の世界に再生させたのが宗達であった」とは、知らなかった…
彼はモチーフの引用にも積極的だった。「旧い先行作品から適宜に図様を求め、新しい絵に借用することは、日本の絵画ではよく行われてきた。宗達もしばしば保元、平治、西行、天神縁起などの絵巻から、人物や動物、建物、樹木などの姿、形を選び出し、そっくり自らの画中にすべり込ませている」。パクリではなく、新たな芸術に昇華させているところが流石だ。そして、百人一首を覚えた時に学んだ「本歌取り」も、全く同じ手法であることが繋がる。日本人の感性というのは、こうやって様々な分野で同じ思想哲学が息づいているんだなぁ。


美術はハードルの高い分野なのだが、こういった形で「繋がり」「流れ」が網目のようになって理解できるようになってくると、その奥深い世界に触れられるようになる。感性を磨く、という意味でも、ハイレベルな教養分野なんだろうな、ということを感じさせてくれる一冊だ。