世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【ノートルダム大聖堂炎上に、思う。】

19年4月16日、衝撃のニュースが飛び込んできた。フランスはパリのノートルダム大聖堂が炎上した、というのだ。しかも、速報ベースでは「修復作業中の炎上」というのだから、泣くに泣けない。1949年の「国宝・法隆寺金堂火災(内壁の世界的な仏画が焼失した。模写中に使われていた接着剤を溶かすためのヒーターまたは電気座布団の漏電と思われるも結局不明)」を思い出す。

これを受け、マクロン大統領は現地へ赴き、再建を宣言したとのこと。この悲劇的な事故を受け、機敏かつ適切な判断であり、高く評価したい。

…それはさておき、考えたこと。

心理的距離とインパクトが、保全の格差を生む。
今回の事件は、パリのド真ん中にある有名観光スポットのひとつノートルダム大聖堂で発生し、かつ「炎上」という強烈なインパクトとともに損傷した。故に、大ニュースとして世界を駆け巡り、アメリカのトランプ大統領もツイートしている。
他方、コンゴ民主共和国の「ヴィルンガ国立公園」では、密猟によりマウンテンゴリラが絶滅の危機に瀕し、1994年から危機遺産に指定されている。しかし、物理的にも心理的にも距離が遠く、かつ、もう長年危機に瀕しているので、気にする人はどのくらいいるのか?というレベル。

これはまさに、人間心理「心理的距離とインパクトの違いが、関心の差異を生む」という結果である。
しかし、敢えて暴論を言わせてもらうと「建物は、作り直せる」。しかし、「絶滅した生物は蘇らない」。であれば、ヴィルンガ国立公園のほうを保全すべき、という考え方だってできる。

勿論、ノートルダム大聖堂は再建すべきだと思うし、多くの寄付が集まると思う。それは尊いことだ。
しかし、そうであるならなおのこと、ユネスコノートルダム大聖堂再建に予算を過度に振らず、引き続き保全困難な世界遺産への予算を減らさない(そうでなくとも、アメリカ脱退で台所は火の車)。それが、1092ある世界遺産保全する「全体最適」になるのではなかろうか。

●再建もまた、世界遺産の価値である。
かつて損傷した世界遺産といえば、ユーゴ内戦で傷ついたドゥブロヴニク旧市街クロアチア)を思い出さずにはいられない。

しかし。ここは、市民たちの凄まじい努力で復活を果たす。なんと、レンガを切り出す道具から、当時のままのものを再現する、という覚悟を見せたのだ。
そして、今は「内戦の悲劇と、そこからの復興」という新たな歴史をも語る世界遺産になったのである。

今回の被害は甚大であろうし、どのくらい「復旧」できるかは、全く未知数である。しかし、再建により、パリのセーヌ河岸という世界遺産に、新たな価値の一ページを付け加えることは可能だ。悲劇に立ち向かう人類の叡智と努力もまた、未来に引き継ぐ価値だと考える。