アメリカは、なぜこのような行動に出たのか。それは、今年7月の世界遺産委員会で登録された「ヘブロン/アル・ハリル旧市街」が引き金となっている。ここは、エルサレムと同様、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の入り混じった聖地であり、紛争の火種でもある。
エルサレム旧市街は、その複雑な経緯もあり、隣国ヨルダンによる申請という極めて変則的な手段が取られたのだが、今回、世界遺産登録申請したのはパレスチナ。敵対するイスラエルとしては容認しがたく、またイスラエルの同盟国であるアメリカもこれに反発。しかしながら、これが世界遺産登録されたことにより「ユネスコはイスラム偏重であり、目的はよいが政治的に混乱を招いている」ということで、その運営に改革がされないので脱退する、という理屈なのである。
…もちろん、人類共通の宝を未来に引き継ぐという目的をアメリカが否定したとは思いたくないし、そこについてはアメリカも否定していない。「そこに至る方向性がおかしい」という主張である。だが、だからといって脱退が適切な手法なのか?ということも問題である。暴力で揺さぶって自分の言い分を通す、ということであれば、ミサイル発射を繰り返す駄々っ子のような国(そして、アメリカはその国に対して非難をしまくっている)と同じじゃないの?というところ。
とはいえ、それをアメリカに認めさせるのは困難だろうし、やはり、「対話を尽くす」という方向性なんだろうな、と感じる。難しいところだ…
さて、こうなると「じゃ、アメリカの世界遺産はどうなるの?」ということが問題になるが、ニュースではなかなかそこまで報道しきっていない。
過去にも、アメリカはユネスコの政治的偏向を理由に脱退したことがある(1984年~2003年)。じゃ、その間、アメリカの世界遺産登録はどうなっていたのか?というと、実は粛々と登録されていた。「なんで?」と思われるかもしれないが、世界遺産登録は「世界遺産条約」に則って行われる。アメリカは、ユネスコは脱退したものの、世界遺産条約加盟国を脱退したわけではないのだ。よって、アメリカの世界遺産は継続するし、新たな登録申請もできるというわけ。