世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】魯迅「阿Q正伝/故郷」

今年69冊目読了。中国の辛亥革命に大きな影響を与え、旧制度・旧道徳の病根を抉り出していった作家による代表作。

表題作は、どちらも有名だが、ぱっと読むだけでは「何のことやら?」という感じに陥る。あくまで、この本は「辛亥革命を目指し、現在(=1900年代初頭)の中国における制度疲労、社会問題を厳しく批判する」という背景・狙いがある、ということを頭に入れておかねばならない。

特に、阿Q正伝の主人公・阿Q(←よくもまぁこんな名前を思いついたものだ)の「負けていても、自分より下のものを見ることによって常に心理的に勝ち続ける」という不毛な自己弁護は、強烈な印象を残す。「今あるものを大事にする」ことと「人との比較で自分より劣るものを見つけて勝ち誇る」ことは全く違うのだが、今の日本も後者(要するに、辛亥革命前夜の中国)と同様な状態に陥っていないだろうか。かくも、人類は進歩しないものか。そう思うと、空恐ろしくなる。

対岸の火事と思わず、自分事として読んでみる。そうすると、とたんに身につまされる感覚が激しく湧き上がってくる。現代だからこそ、必読書ともいえよう。

【読了】モーム「月と六ペンス」

今年68冊目読了。イギリスの劇作家、小説家が、画家ポール・ゴーギャンの生涯をモチーフにしながら、本当に生きる道を見つけた人間の苦悩と直進、そしてそれに巻き込まれる周囲を描き出す一冊。

主人公のストリックランドとの関係を持たざるを得なくなったストーリーテラーが独白の形で語っていくのだが、主人公が実に型破りで凄まじい。「自分の天命は何か」を見つけてしまった(あえて、見つけた、ではなくこう言いたい)人間は、こうして生きるしかないのだろうか。常々「なぜ、自分はこの世に生まれ、生きているのか」を問う癖があるのだが、逆にそれを見つけたほうがある意味不幸なのでは?(世間基準にのっとってみると)…と思うほどだ。

ロンドンからパリ、マルセイユ、そしてタヒチへ。モームの緻密な筆致が、見事な場面転換と主人公の心情の変化(といっても、極めてわかりにくいが)を描き出している。

人は、何のために生きるのか。その疑問は永遠の謎だが、辿り着かないと解けないものがある。そして、そこに辿り着くことは世間的にはまったく幸せに見えない。ただ、自分の赴くままに、というのは実に不可思議な世界、なんだろうな。そう感じた。

この本のメッセージの深さは到底書評しきれないので、以下、印象に残った言葉を抜き書きする。

「魂の成長のためには、毎日、いやなことを二つ実行しなさい」「他人の言うことなど少しも気にならないという人を、私は信用しない。ちっぽけな自分が多少いたずらしても誰も気にしないだろうという前提があって、そのうえで世間からの批判など恐れないと胸を張っている。無知な人間の空威張りにすぎない。」「苦難が高貴な性格を作るというのは真実ではない。幸福が心の気高さを生むことはときとしてある。だが、苦難は、だいたいの場合、人を狭量にし、意地悪くする。」「私たちは相手がこちらの意見に耳を傾け、こちらの影響下に入ることを、たとえ無意識であれ期待している。そして、期待が裏切られると相手を憎む。無視されることは、人間のプライドへの最大の打撃だ」「結局は、人生をどう意味づけるかによる。社会から個人への要求と、個人から社会への要求をどう認識するかによる。」

【国宝】曜変天目

藤田美術館所蔵。

中国南宋時代、中国南部の福建省建窯で焼成された茶碗。漆黒の器で青や緑に斑文が光り、典型例は世界に3例しかない。徳川家康から水戸徳川家に渡り、藤田美術館に至る。
曜変天目茶碗とは、建窯で作られた建戔の一種。天目とは、中国の天目山一帯の禅宗寺院で修業した日本の留学僧が持ち帰った黒釉茶碗を天目と呼んだことに由来する。曜変とは、窯の中で焼成中に起こる偶然の変化を窯変といい、光り輝く曜の字を当てた。

見込に現れた斑文は円形や筋状となっており、椀の外側にも多数の曜変があり、この茶碗の特徴となっている。

【大阪悲願の世界遺産、誕生。】

ついに、きた。百舌鳥・古市古墳群世界遺産登録。これにより、有史史上初の「大阪の世界遺産」が誕生した。もちろん、保全・歴史経緯は重々承知しているが、「東京」と比類する商都として栄えながら、現代においては衰退の道を辿っている大阪に、大いなる観光の「目玉」ができたことは、大変喜ばしい。
 
…勿論。世界遺産というものは「保全」が前提であり、「人類の宝を未来に引き継ぐ」のが本旨である。故に、これらの古墳群も、大切に保存する必然がある。
とはいえ。既にして、その保全には多大なる労力と知恵が割かれているのであり、この流れを維持することが大事。むしろ、世界遺産ブームで観光に荒らされないことのほうを意識すべき。
 
まぁ、佳きにつけ悪きにつけ、これらの古墳群は上空から出ないとフォトジェニックではない(=インスタ映えしない)。よって、過度に荒らされることはなかろう。
 
逆に、どう「魅力を伝えるか」。そちらの課題と「保全」の両立が問われている、と感じる。

【読了】アーリック・ボーザー「Learn Better」

今年67冊目読了。米国先端政策研究所シニアフェローの筆者が、頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップを書き記した一冊。

〈お薦め対象〉
「学習」という行為に関わるすべての人
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★★
〈実用度(5段階評価)〉
★★★★★

自分の問いは3つ。
『学習の特性は何か?』には「習得とは、あるスキルや知識分野において深いつながりのネットワークを持つこと。効果的学習には不確実性が必要で、学ぶ者はそのあいまいさを受け入れなくてはならない。慣れによる過信が生まれる」。
『人間の特性は何か?』には「脳の自動操縦状態を解除する一番の方法は意味を探すこと。人は自分に貼ったラベルにふさわしい行動をとりやすい。直観が素早く動くことで、事実を本気で考察する機会を得る前に心の中でわかった気になりがち」。
『どのように学習すればよいか?』には「課せられた知識の習得に意味を探す。自分で自分に問題を出したり、自分に説明してみたりするような能動的学習が効果が高い。ミスをした後、自分に『ここから何が学べる?どうすれば成長できる?』と問いかける」。

これは今までの常識をひっくり返され、かなり「目から鱗」でお薦めの一冊だ。「蛍光ペンのラインマーカーは学習を深める意義は少ない」とか、「そうなんだ…」という話がたくさん。学習の6ステップとしては「価値を見出す、目標を決める、能力を伸ばす、発展させる、関係づける、再考する」。これを掘り下げていくことが大事。

とにかく、有益な記述が多いのもこの本の秀逸なところ。「脳が高度な活動をするためには理性と勘定の両方を必要とする」「自分への語り掛けには、二人称『あなた』のほうが一人称『私』よりも効果が高い」「学習の目的は、情報を統合して意味を形成すること」「書くという行為は、思考を減速させ、熟考を促す」「自分の思考を理解するためにはいったん思考から離れてみる必要がある」など、どれもこれも唸らされる。

絶対にお薦めの一冊だ。最後に、この言葉を引用しよう。「自分を一新させなければならない。その努力に終わりがあると思ってはならない」。

【読了】チェーホフ「桜の園/プロポーズ/熊」

今年66冊目読了。ロシアの文学科としては異例の短編小説・戯曲に活躍の場を求めた鬼才が描き出す悲劇と、滑稽で支離滅裂なボードビル2編をまとめた一冊。

表題作「桜の園」は、流れゆく世の中に対応しきれない家族の悲劇を描き出す。チェーホフ先生の「ワーニャ伯父さん/三人姉妹」でも感じたが、今までの習慣にとらわれて変化できず、時代に飲み込まれていく様は本当に胸が詰まる。この感覚、若者には理解できまい。これもまた、「変化を恐れる」中年に対して、いみじくもダーウィン先生の「変化するものが生き残る」(進化論より)を証明していく形になっている。21世紀という変動の時代に生きるからこそ、一度は中年層が読むべき本だろう。

他方、ボードビル2編は、なんとも滑稽なやり取りが笑いを誘う。しかし、よくよく考えてみると、この手の「目先のことにとらわれて、全体を観られないがために不毛なやり取りをしてしまう」なんて、そこここに存在している。そう考えると、笑いはそのまま自分に跳ね返ってくるようにも感じ、いささか暗澹とした気分になる。

やはり、チェーホフ先生、人生と人間に対して(良くも悪くも)冷徹だ。

【リーダーは、見られている。】

我が社は、7月が定期異動。そのため、職場の牽引役たるリーダーにも異動がある。そこから、考えたこと。

《ポイント》
●リーダーは、自分を出しても、リアルなフィードバックが少ない。
リーダーは、「立場(≒人事権)」を持っている。そのため、周りのメンバーは、否定的なフィードバックを返しにくくなる。何故なら、それによって人事的不利益を被りたくないから。

●上記より、リーダーは、振り返りを怠るようになる。
そうなると、どうなるか。リーダーは、否定的フィードバックがないと「自分の行動は追認されている」と勘違いし、自分の行動を振り返らなくなる。結果、自分の意のままになるとの勘違いそのままに、我が儘に行動し、反省もしなくなる。

《問題の所在》
●リーダーのエゴは、メンバーに丸見え。
ところが、上記のサイクルなんて、メンバーには丸見え。でも、その頃にはメンバーは「あぁ、このリーダーには、否定的なことを言っても無駄だ。疎んじられるだけだ」と無力感の学習をしてしまう。

リーダーのエゴが、チームの無力感を醸成し、モチベーションを損なう。そのサイクルを、リーダーとメンバーが協力して回してしまう事態に陥る罠には、常に気をつけなくてはならない。

自戒の念を込めて。