世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】天児慧「中華人民共和国史」

今年6冊目読了。アジア政経学会理事長を務めた筆者が、20世紀の中国共産党とその歩みを総覧した一冊。


新書本なので読みやすく、それでいて主張は明確でわかりやすい。中共の基本的ファクターを革命、近代化、ナショナリズム、国際インパクト、伝統に切り分け、読み解いていくので、面妖たる中華人民共和国の歴史がおぼろげながら理解できる。


毛沢東への分析も鋭い。「大衆運動・動員による目標の実現への信念、自分自身への過信などが、毛を独自の社会主義建設の魅惑に駆り立てた」「最初から、反中共分子をたたくというターゲットを持って、妖怪変化をあぶりだす方法で自由にものを言わせ、しかるのちに反撃する」「彼の信念を構成する最も重要なファクターはナショナリズムと革命」「毛は革命の重要な一つの要素である敵の打撃に関しては、きわめて冷静に見通しを読み、策略を練ることにたけた世界でも類まれな軍事戦略家」だが、建設者としては彼の思考は大躍進に見られるごとく性急であり、緻密さに欠けていた」「毛の軍事的特徴は、弱い我が強い敵を打倒するために、一方で拠点を作り上げながら、他方でいきなり敵の本陣に入ることなく、人民の大海に敵を誘い込み、攪乱し、討つというやり方」と見抜く。


50年代後半以降の社会フラストレーションを「社会的差別、労働者間の差別構造、教育面での差別構造」と述べるが、今の日本と何ら変わらない気もして空恐ろしい…。文革については「恐怖と猜疑心の中で極端なまでの個人崇拝と肥大化した軍事独裁、さらには社会の軍事化によって特徴づけられた」。90年代は「経済大国化への挑戦と並行して、軍事力の増強、さらには強気の外交に方向転換した」として、この流れが今に続いている。鄧小平が江沢民を抜擢した理由として「経済の改革開放を推進しながらも、政治安定のために毅然として民主化を鎮圧できる人物を鄧は欲していた」とし、今の習近平に連なるリーダーシップの根幹を感じる。


毛沢東という稀代の天才革命家にして世紀の愚鈍な施政者が君臨したことにより、実に中華人民共和国というのは理解がしづらい。そこに、少しでも補助線を引いてくれるような書籍だ。書かれたのは1999年だが、同国のメンタリティは基本的に何ら変動していないので、非常に参考になる。お薦めの一冊だ。