世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】宮崎市定「大唐帝国」

今年35冊目読了。京都大学文学部長を務めた著者が、中国の中世を圧倒的なスケールで描き出した一冊。

畏友(というのもおこがましいのだが)がお薦めしていたので、これは歴史の勉強になるだろう、と手に取ったが、実に素晴らしい。中国史は、個別の権力者の話もそれぞれに面白く、どこまでも掘り下げていくことができるのだが、あえて「大きな流れ」を押さえることに注力し、中国が古代から中世に至り、そして近世の萌芽に向かっていくという「時代を読む」本。

ついつい、個別の権力者の話ばかりに目が行くのだが、それを非常に控えめに(それでも実に面白く個性は描き出しながら)とらえ、「時代のうねり、流れはどのように向いていて、その時々の権力者、そして市民はどのような役割を果たしていったのか」を圧倒的な筆致で描き出す。こんな歴史の通史本があったとは…正直、驚嘆しきり。そして、太平洋戦争とその後における日本のだらしなさについても義憤がちょいちょい迸り出るあたり、著者の強い正義感を受け止めることができる。

中国は、そのものがスケールが大きすぎて、どうにも捉えきれないという感覚があったのだが、それをさらに「中世の東洋と西洋の相似形」というところまでスケール大きく捉えて書き切った筆者の叡智には舌を巻くしかない。21世紀の時代の変化があまりにも目まぐるしく、ついつい目先にばかり気を取られてしまいがちだが、ロングレインジで扱うということの大事さを感じさせるし、これこそが時代は移ろい流れても、歴史を学ぶ意義なんだ、ということを痛感させられる。

400ページ以上の文庫本だが、本当に読みごたえがある。中国史の中では「ワクワクする英雄もの」が人気なのはよくわかる。しかし、時にはこういった「骨太な」歴史書を手に取ってみることもお薦めしたい。