世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】シェイクスピア「オセロー」

今年3冊目読了。これまた説明するまでもない、シェイクスピア「四大悲劇」の一つ。

これは本当に傑作だ。人の心というものは、猜疑心という水滴が一滴零れ落ちるだけで、どこまでもどす黒く染まっていく。しかし、そんな中でも「人を信じたい」という思いが猜疑心とぶつかり合い、苦悩の淵から谷底へ堕ちていく、ということが、シェイクスピア得意の圧倒的な修辞力とともに描き出されている。時間が経過するたびに、オセローをはじめとした登場人物が闇に堕ちていく様子は、胸が苦しくなる。そして悲劇的終末へ…なるほど、これは実際に演劇で観たくなるし、さらにいえばシェイクスピアの翻訳というのは翻訳家にとっては夢であり艱難である(英文のニュアンスを日本語で伝えきるというのは面白くも壮絶なチャレンジだろうことは想像に難くない)ことがよくわかる。

奸臣イアーゴーの謀略に至る心持ちも描かれているし、「人間、それぞれに自分の都合のいいストーリーに頼りたがる」という真理がとんでもない形で浮き彫りにされている。そして、疑念という悪魔の力の恐ろしさも。いや、死ぬまでに読んでおいてよかった。これ読まなかったらあの世で後悔するところだった。

余談だが、本作に基づき(黒人オセローと白人デズデモーナの役割がくるくる入れ替わることから)ボードゲームに「オセロ」の名をつけた、ということは実に秀逸だが、原作を読んでみるとやはり思いが違う。これから、オセロやる時には違った感慨を抱きそうだ。
また、外国作品が苦手なワタクシとしては本当にしょうもない余談なのだが「ロードヴィーコー」と「ロダリーゴー」なんていうややこしい名前、なんとかならんものだろうか(アンナ・カレーニナの「オブロンスキー」と「ヴロンスキー」よりはマシだが)。まぁ、日本人で「山田」と「山下」をややこしいと思う奴なんぞおらんだろう、という事と同じなのかもしれんが…