世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】三宅雅子「熱い河」

今年142冊目読了。数々の文学賞を受賞した筆者が、パナマ運河の建設に日本人でただ一人関わった技師・青山士の活躍を描き出した一冊。


若い頃、パナマ運河を訪れた際に、博物館に展示されていた本を見かけて『なぜ、日本語の本がここに?!』と気になったのを、ふと思い出して、読んでみた。青山士が快男児で、本当に爽快な読み応え。


「先ずやってみなければ、何事も始まらない」「善を為す事のみ善事にあらず、困難に耐ゆる事、これまた善事なり」「皆で力を結集し、人類のため国のために後世に残す仕事がしたい」という青山の使命感は、実に見習いたいところである。


また、色々とコロナ禍で制約の多い2020年においては「かつてパナマ鉄道を作った時、多くの自殺者が出たが、原因の大半は鬱病だった。だから、よほど悪い楽しみ方ならともかく、適当な娯楽は労務者には必要だった」という『現場の苦闘』にも共感できる。


さらに、コロナ禍で鬱々として楽しまない日々に晒されている身としては「下働きをしている貧しい生活の中で、海を見つめるぼんやりとした何時間かは、彼にとっては大変贅沢であり豊かな時間」「ここで病気が怖いといって逃げ帰ったら、何しにパナマに来たのかわからない」「青山の素晴らしいところは、学んだものを帰国後、結実させていったことである」という青山の姿勢は非常に胸を打つものがある。


青山はクリスチャンであったために「青山はそのとき、自分に深い信仰があった事を有難く思った。人間は弱いのだ。誰でも心の中に大なり小なりの闇や迷いの部分を抱えている」の記述があるが、そういった信仰を持たない身としては、いかに人生と向き合って生きるか、というのは大きな課題だ。


面白いが、古色蒼然としている感は否めない。しかしながら、読む側の受け取り方でどうにでもなるのが小説。この本を、たまたま2020年に手にした、というのも中々意義深いように感じる。