世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【コロナ後の国宝。】

 コロナウィルスが猛威を振るう中、当然のことながら、美術館・博物館も休館に追い込まれている。ゴールデンウィークは多くの人が来訪することが想定されていたが、それもままならないのみならず、いつ再開できるかすら全く見えない状況である。これが、日本の文化財の至宝たる国宝に、どのような影響を及ぼすことになるのか。


1.コロナ前の国宝
 コロナがここまで伝播する前には、国宝の保全は万全であったのか。実際には、一部の「非常に名が知られた」国宝以外は、かなり厳しい状況にあったと言わざるを得ない。
 大きな課題は「職人の養成、後継者育成」である。建築物、仏像、宝飾品など、国宝は多岐にわたっているが、その修復、保全は往時の手法、技術を求められ、非常に難易度が高い。一朝一夕に習得できるようなものではないので、職人養成は長期的視野で考える必要がある。
 しかし、職人の後継者になろうという人は非常に少ない。これは、単純に「職人の給料が安い」ことが挙げられる。非常に厳しい修行、鍛錬を積まねばならない割に、見返りが少なくては、ある意味当然の帰結と言える。
 では、その原資はどこから生み出すのか。それは、畢竟、「国宝から利益を得る人」すなわち国宝を観る人、楽しむ人。利益を享受した人間から取るしかない。もちろん、日本の宝であるが故に、税金から分配することも考えられるが、一定量は必要であっても、過度な産業保護はそれはそれで便宜供与を生み出すのでよろしくない。
 …が。博物館や寺社仏閣の入場料は極めて安価に抑えられており(それはそれで文化に触れやすいというメリットではあるのだが)、修復、保全の原資とはなり得ていなかった。


2.コロナで国宝はどうなるのか
 もちろん、国宝を支えるのが「観覧料」である以上、不急不要とされている観光が止まっている今、まさに「修復のためのキャッシュフローが止まっている」状況に陥っている。
 これが長引くと、どうなるか。本来、修復保全を行うべき国宝に対して手だてを打つことができず、そのまま放置されてしまう。
 そして、社会活動そのものが生きるか死ぬか、という状況に陥っている中では、文化財に回す経費支出が後回しになってしまうのは致し方ない。この状況が続くと、職人が暮らせなくなってしまうことを通じて、極論「国宝が国宝たるだけのレベル」を保てなくなってしまう。


3.コロナ後の国宝をどうすべきか
 そもそも、コロナ前の国宝の抱えていた問題点をまとめて解決すべきと考える。
1)修繕に必要な収益確保
 まずは、国宝を見学するにあたっての金銭的ハードルを上げ、それを修復の原資とすることを考えたい。といっても、国宝を未来につなぐべき世代である若者に対しては「一定レベルで触れることのできる機会」を確保することを狙って、なるべく上げたくはない。
 となると、やはり「宝を次代に繋ぐ」という意義から、また日本の貯蓄の偏りから考えても「リタイア後の世代に負担をいただく」ということになろう。子供世代は極力安く、そして年配者に負担増とする傾斜方式である。受益者負担の原則と、次世代へ繋ぐという両方の要請を満たすには、この方法は検討の余地があろう。
2)収益の単価アップと、それに見合った魅力付け
 ただ、「展示しているだけ」「それに5行程度の説明書きしかない」という現状の国宝の展示・閲覧状況では、到底成り立たないと感じる。やはり、その国宝のいわれ、どこが国宝たる所以か、またほかの国宝や歴史との絡み具合などを詳細に説明されてこそ、観覧者が感情移入をしたり歴史を感じたりすることができるようになる。
 歴史とストーリーを楽しむことができるようなアミューズメントとしての国宝。それは、単なる面白おかしさではなく、高尚な浪漫を感じさせることになる。また、歴史の荒波を切り抜けてきた国宝は数多いので、コロナという疫病に苦しむ現代人においては何らかの勇気を与えてくれる効果も望める。
 「宝だ、専門家がそういうんだから素晴らしいとあがめろ」という展示方法は終わりを迎えるべきだ。今後は、「観る人が、自分の人生に引き寄せることのできるストーリーを提示することで、それに見合ったフィーを払う気持ちになる」という展示方法が求められるのではないか。
3)オンラインでの発信と、サポーター制度
 コロナ後には、そもそも国宝展示を行っても来客が見込めない、ということも十分に考えられる。これは、感染症拡大防止のためにはやむを得ないことである。しかし、その中で、国宝を修復する原資をどのように稼ぐか。
 ひとつ考えられるのは、オンラインである。YouTubeなどで国宝が見られるようにして、深い説明や見方などについては有料コンテンツとするのだ。これなら、普段は観覧者に提示できないような見え方、細かい説明なども可能になるし、それに対して課金することがいわば「その国宝のサポーターとなる」ことにもつながる。
 そういったメッセージを提示しながら、国宝保全への協力を仰ぐ、というストーリーは、コロナ後の社会においても受け入れられやすいだろう。


 上記1~3は、いっぺんに行うことは難しいだろう。順番に行っていくほうがよいと感じるが、知名度の高い(≒もともと原資のある)国宝はいきなり3に取り組むこともできると思う。

 


 もちろん、今を生き残ることが第一であるが、その後の社会を考える必要もある。国宝という宝をいかに次代に繋いでいくか。それに知恵を絞ることも、未来の社会への貢献の道しるべを見出す一つの形だと思う。