今年47冊目読了。 19世紀フランスが生んだ偉大な作家の中編、短編小説を集めた一冊。
表題作の「宝石」は、パートナーの謎に包まれた二面性を強く感じさせ、またラストのわずかな文での強烈なインパクトがたまらない。「遺産」は、人間のエゴが剥き出しでぶつかり合っていき、欲に呑まれた人々の(ある意味)成れの果てが描かれるところが実に秀逸。
これも光文社古典新訳文庫なのだが、このシリーズは実に良い。読みやすいし、中短編の選び方も絶妙。モーパッサンは厭世的というのは知っていたが、実際に読んでみるとつくづく痛感する。ただ、単純に厭世的なのではなく、人間の本性をしっかり見据え、「こうありたい」という気持ちを十分に汲み取りつつも「現実はこうなってしまう」というところの落差をしっかりと描き出しているところに、人間の哀しい性と、それでも理想を求めてしまう業の深さを知り尽くしているんだろうな、という感じがする。
特に、この本では「家族」「夫婦」というものに対してかなり手厳しく切り込んでいる。親愛と功利という理想と現実。その折り合いをつけるどころか、むしろ生々しくぶつけ合うことにより、現実の厳しさをまざまざと見せつける。
どんな人でも、これは一度読むべき小説だ。さすがは巨匠・モーパッサン。