今年26冊目読了。言わずと知れたシェイクスピアの戯曲で、実在するジュリアス・シーザーの暗殺とその後を描き出した一冊。
本作でも冴えわたるシェイクスピアの細かい心理描写、そしてブルータスの苦悩。それぞれの登場人物が自分なりの正義を述べていくところは、政治描写として面白い。そして、簡単に政治家の演説に右顧左眄する大衆と、それにより国家の行く末が大きく左右される点は、実はシーザーの頃から何も人類は学んでいない、という事実を突きつけられ、絶望的な気持ちになる。
政治家に限らず、リーダーはメンバーの動きを想定し、言葉によって思いを述べ、それによってメンバーを奮い立たせて動かしていくことが求められる。その手練手管、メンバーの反応というフィードバックを巧みに吸い上げながら見事に演説を織りなしていく登場人物を観るにつけ、むしろ当時の政治家(劇なのだが)のほうが現在の政治家や組織のリーダーよりもよほど賢かったのではないか?とすら思う。
そして、「空気」が世論を形成し動かすという恐怖(そこを強調しているわけではないが)。最近、その手の「場を支配する空気」について考える機会が何度かあったので、その観点から読んでみても、非常によく練り込まれている。いろいろな読み方ができる、というのは、さすが名作。史実だけでも十分に面白いが、それが素晴らしい劇に昇華されている。ぜひ、一読をお勧めしたい。