世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【知床】

〈ここが凄い!〉
原始の自然が残る陸海一体の生態系と生物多様性の価値
〈お薦め度(5段階評価)〉
★★★★☆
なんといっても、海と森、という双方が世界遺産なので、「この地だけ」という素晴らしさを二重に味わえる。
〈アクセス(5段階評価)〉
★★★★☆
知床の世界遺産エリアに入るのに時間がかかる(手付かず故に世界遺産となったので、痛し痒しだが)。
保有国〉
日本
〈登録年〉
1996年
〈登録基準〉
ⅸ:動植物の進化や発展の過程、独自の生態系を示す遺産で、現在進行中の生態学、生物学の代表例も含まれる。

 
ⅹ:絶滅危惧種の生息域であり、生物多様性の保存のために重要な遺産。
 
〈概要〉
●豊かな食物連鎖
海水の塩分濃度差により、流氷が到達する(ユーラシア大陸から流れ込む淡水で、海面付近に塩分の薄い層ができ、結氷する)。これにより、低温の濃塩水(ブライン)が降下して対流が活性化、海底付近の栄養塩が海水面付近に押し上げられる。
春になると、これを栄養素とする植物性プランクトンが大量発生。それを餌とする動物性プランクトンを小魚や貝が食べ、サケやマスがそれらを捕食。それをまた餌にするキタキツネやヒグマ、シマフクロウオオワシオジロワシ。海洋生態系と陸上生態系が相互に関係する生態系を生み出している。
●多様な植物
低標高地では、ミズナラシナノキなどの広葉樹林、トドマツやエゾマツなどの針葉樹林、これらが混成した針広混交林がモザイク状に分布している。
また、海岸線から山頂まで、標高に応じて温帯性から寒帯性まで様々な植生の「植物の垂直分布」が見られる。
●多様な動物
海水、淡水合わせて255種の魚類、35種の陸生哺乳類、トドやミンククジラなど28種の海生哺乳類、264種の鳥類が生息する。
 
〈課題〉
観光客のゴミや糞尿被害が問題とされている。漁業が盛んな地域のため、スケトウダラなどを持続可能な範囲での漁獲に留めることも必要。
 
〈参考図書〉
佐古浩敏、谷口哲雄、山中正実、岡田秀明「世界遺産知床の素顔」 海と陸、そしてそこで育まれる生命の営みを概観できて、わかりやすい。
かつ、写真が多いのでイメージがしやすく、かつ生物ごとに章をまとめてあるので、頭に入りやすい。
 
世界自然遺産への道」の章では、漁業の生計と環境保護のせめぎ合いが感じられ、非常に興味深い。「トドと人間の生活とどっちが大事か」「漁が規制されるなら世界遺産にならなくてもよい」などは、長年、環境に適合して暮らしてきた人からすると当然の主張。このへんは、自然保護に関わる大事な課題だ。
 
大地の行き詰まりを表すアイヌ語の「シリエトク」に由来する知床。そのリアルを教えてくれる良書だ。