世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】伊坂幸太郎「魔王」

今年130冊目読了。ベストセラー作家の筆者が、不思議な能力を持つ兄と、その弟が別の能力を引き継ぐ、という奇妙なストーリーながら、妙な実感を持たせて進んでいく小説。


いかにも伊坂幸太郎らしい小説。そこここに、様々なメッセージが盛り込まれているところも面白い。


ネタバレ回避で、気になったフレーズを抜き書き。


若者と社会については、「未来のない老体が未来を考えられるか?未来のことを考えるのはいつだって若い人間なんだよ」「若者が国に誇りが持てないのは大人が醜いからだよ。政治家がテレビの前で平気で嘘をついたり、証人喚問で、禅問答のような答弁をしたり、そういうのを見てるから、舐めてるに決まってるんだ。どこにどう誇りを持てって言うんだよ」は、厳しい抉り込み。


人の特性として「相手を言い負かして幸せになるのは、自分だけだってことに気付いてないんだよ。理屈で相手をぺしゃんこにして、無理やり負けを認めさせたところで、そいつの考えは変わらないよ。場の雰囲気が悪くなるだけだ」「得てして人は、自分の得た物を、自分だけが得た物と思い込む」。
さらに、集団の特性として「集団は、罪の意識を軽くするし、それから、各々が監視し、牽制し合うんです。命令の実行を、サポートするわけです」「人は、命令を与えられれば、それがどんなに心苦しいことであっても、最終的には実行する。命令された仕事だから、と自分を納得させるのかもしれない」あたりは面白い。


社会の流れについて「ムードとイメージ。世の中を動かすのは、それだ」「物事の大半は、反動から起きるんだ。たとえば、過激な映画が流行った後は、穏やかな恋愛映画が流行るし、ドラマの時代の後には、ノンフィクションの時代が来る。天才肌のサッカー選手がもてはやされた跡は、努力家の野球選手に注目が集まる。穏やかで繊細な物語が重宝がられれば、次には、骨太でダイナミックな冒険小説が歓迎される。みんな、自分だけは逆の道へ進もうと反発するが、けれど、それが新しい潮流となる。ありがちだ」という言及も、確かになぁと感じる。


筆者の『憂国』を感じるのは「諦観が国中を占めはじめている。溜息の充満だ。諦観と溜息の先に何が待っているのか」「まともに生活することもままならない人間が多すぎる。彼らは無料の娯楽で、毎日を過ごす。テレビとインターネットだ。豊富な情報と、単調な生活から生まれてくるのは、短絡的な発想や憎悪だけだ」「この国の人間はさ、怒り続けたり、反対し続けるのが苦手なんだ。どんなものだって、最初はみんな、注目して、マスコミも騒ぐ。ただ、それが一度、通過すると二度目以降は途端に、トーンが下がる。飽きたとも、白けたとも違う。『もういいじゃないか、そのお祭りはすでにやったじゃないか』っていう、疲労混じりの軽蔑が漂うんだ」のあたり。本当に、そうだよな…


そんな中、どう生きるか。「人類の進化の最大の武器は、好奇心だ」は、まさに然り。自分も好奇心を失わないようにしたい。