世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】小松左京「明日泥棒/ゴエモンのニッポン日記」

今年87冊目読了。ベストセラー作家が、宇宙人の視点で日本と世界の矛盾を鋭く抉り出す小説。


三谷宏治お薦めの本は、やはり安定的に面白い。1960年代の小説とは思えないくらい、現代においてもその説得力は衰えていないのが凄いというか怖いというか…ぜひ、一読をお薦めしたい。ギャグのようなやり取りに笑いながらも、戦慄するようなフレーズがそこここに散りばめられている。


ウクライナ侵攻の現在においても「ヨーロッパ、白人種のつくり上げた、近世、近代世界は、一面、火薬と銃火器によって押しひろげられた、西欧的世界だった。たしかにそれは、中世とアジア的停滞世界をうちたおしたかもしれないが、半面火器の絶対優越を軸にして、まことに強引に押しひろげられた世界だった」「現在はなお、根本的には、人間の理性の支配する世界ではなく、力の支配する世界です。強大国が横車をおしても、それを国際的に制裁する、決定的なルールや手段は、ないにひとしい」というコメントは何ら変わっていない点、人間の進歩のなさを感じる。
そして、日本の「今日、国防問題に、国民が関心と信頼を失い、時にはこれを白眼視しているのは、代々の為政者が、国防上もっとも重要な、国民の意向を無視し、かってに外国ベッタリ依存の方針をきめたからである」の状況もまた然り…


宇宙人から「宇宙やとか、未来やとか-アホかいな。もうちょっと、あんたら、自分の足元見なはれ。殺し合いもようやめん種族が、ヘタに科学文明だけつみあげたら-自滅するだけや。身のまわりが、チンとでけるまでは、ヘタな高のぞみ起こしなはんな。やたらとガキこさえたり、ゼニかかるもンこさえなはるな。自分で自分の明日を泥棒してるのは、かえって人間自身やないか」という厳しい指摘を受けつつも、「人間というやつは、わりあいタフにできており、衛生観念というやつは、わりあいいいかげんなものだ」「放射能の灰、スモッグ中の鉛、米の中の猛毒有機水銀、とりしまってもとりしまってもつかわれる有毒な食品添加物、生野菜にのこっていて、ヘタをすれば生命とりになる農薬の有機リン-これらの蓄積性の毒物によって、いまや人間の『種』は、おそろしく苛酷なシゴキをうけている」という実態はむしろ悪くなる一方だ。


企業で働く身としては「”組織”とは、すくなくとも現在のところ、エゴイズムの避難所であり、人間的良心の抹殺場である。組織とは、利害の怪物が格闘しているところであり、そこでは、一切の善意が、腐敗してしまう」の指摘が心に痛い…かつ、「国会議員たるには、多額の資金を要し、かつ激烈な競争あり。この点大学受験制度と酷似せり。競争激烈なる一方、はいってしまえば、あとは天国のごとく、数々の特権と未来の保証ありてサボリ放題なる点も、大学制度と同じ」「人間は、地球上ではじめて、『時間と速度』を主食せる生物なり。いまやスピードは第二の主食となり、これなくしては、人類はスピード禁断症状により飢え死にするべかりけり」というセリフも、実に耳が痛い。


世代間格差についての「戦前の子供たちは、強力な父権のもとに、早くおとなになることをあこがれたが、さて親父になってみると、戦後は子供の世代が圧倒的につよくなりかつ保育されて、親父は子供たちによって、疎外される」「世に言うオトナの文化というものの影がうすれたというのも、戦後、母親子供連合軍が、猛烈につよくなったためかもしれない。なにしろ、世界的に見て、男のオトナたちは、あの大戦争をやらかした、という黒星をせおっており、勝った方も負けた方も面目を失い、自信を喪失している」という言及よりも、まさか就職氷河期世代の格差のほうが酷くなる、ということは筆者の想像を超えていたんだろうな。それだけ状況は悪くなっているということか…


2022年8月に読んだが、「大都市のたてこんだ地域の暑熱というやつは殺人的で、あんまり暑くなると、人間頭がボンヤリして、いらいらしてくるし、気が立ってくる」は、本当にそう感じる。


唯一、同意できないのがコロナ禍における「異常現象というものは、それが起こっている最中より、すぎさってしまったあとの方が、大騒ぎになるものだ」というのも、非常に皮肉だ…