世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】伊坂幸太郎「AX」

今年85冊目読了。ベストセラー作家による殺し屋三部作の三作目。


マリアビートルを読んでファンになったが、この本で更に心を掴まれた。スピード感あふれる展開、魅力的な登場人物、緻密な心理描写、そしてスカッとするラスト。これは本当に面白かった。


ネタバレ回避で、気になったフレーズを抜き出して見る。


心に響いたのは「ほら、親父はそうやってすぐに、情報を組み合わせて、結論に飛びつくんだ。何でも結び付けたくなる。親父の『なるほど』は要注意だ」「『自分がやったときはいいけれど、自分がやられたら駄目』と主張するのはアンフェアだ」「親も完璧ではない。感情で態度が変わるものなんだ」のあたり。
そして「わたしは別にね、感謝されたいわけじゃないわけ。ただ、それがやって当たり前だと思われると、言いたいところがあるわけ」「管理なんてのはな、限界があるんだよ。全部なんて、チェックできやしないし、こっちの神経がもたない。自分に見えてる部分でさえ、いっぱいいっぱいなのに、見えない部分まで気にしはじめたら、とてもじゃないが」も、まさに自分が思っていることであり、非常に理解できる。


興味深いのは、主人公の殺し屋が極度な恐妻家であることの描写「常に、妻の機嫌を気にかけてしまうのは事実だった。虎の尾ならぬ妻の尾は、家の床中に這っており、いつ踏むかもわからない」「まともに受け止めては心が弱るし、かと言って反論すれば、議論の時間が増すだけだ。心の歯車を停止させ、何も考えないままに、相手の批判を受け入れるほかない。欠点を認め、反省をし、改善を約束する。それがもっとも、円満に解決する筋道だった」「世の中に真理はいくつかある。そのうちの一つ。誰であれ、間違いを指摘されれば心地良いはずがない。さらに、もう一つ。夫に過ちを指摘され、喜ぶ妻はいない」「なぜ、このような仕打ちを受けてまで、俺はこの家庭を維持しようとしているのか」「妻の話にはとにかく『大変だね』の相槌、一択なんですよ。愚痴はもちろん、疑問形の言葉に対してもね、『大変だねえ』と言うことがもっとも妻を癒します」「妻が抱える苛立ちや不満の大半は『自分の大変さをあなたは正しく理解していない』ということ」のあたり。


単体でも成り立っているのだが、やはり順番に読むと、その絡み合いの絶妙さが楽しめる。それにしても、伊坂幸太郎は本当に面白い。アラフィフになって小説にハマるというのもいかがかとは思いつつ、今後も読んでいきたい。