世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】田中孝幸「13歳からの地政学」

今年68冊目読了。国際政治記者である筆者が、子供でも分かるように小説風にして地政学の入門を手引きする一冊。


地政学というよりは「国の位置がその国の外交の立場を決める」ということを原則にしながらわかりやすく世界関係を説明する、という本かな。


アメリカについては「アメリカが超大国と言われているのは、世界の船の行き来を仕切る国だから」「世界の貿易の8割で使われる通貨はドルだ。そしてそれは、アメリカが世界で最も強いからだ。軍事力で圧倒的に強いことほど、強い信頼を与えてくれることはない」「アメリカは世界で一番多くの海底ケーブルを張り巡らせている。データが通る場所をおさえれば、世界中のデータを盗み見して、ほかの国が知られたくない情報を得ることができる」としつつ「結局、一番強い国が悪いことをした時に、それを裁ける国がない」「ほかの国の人のことがわからないと、自分の国の常識を押し付けてしまう」と、力を持ちすぎることのリスクを述べる。
そして、アメリカの豊かさの源泉について「東は大西洋、西は太平洋に守られている。気候が良く、農産物を外国に売っている。石油や天然ガスが豊富で、世界中から人が集まってくるから多様な文化もある。こういう良い条件はそうそう変わらないので、21世紀もアメリカは世界一強い国であり続けるだろう」と指摘する。


実は地政学っぽいところは少なめだが「領土というのは、ぼーっとしていたら取られるというのが世界の常識」「多くの大国の侵略的な行動には、自国を守ろうとする心理が強く働いている」「すべての平和はバランスから生まれる。小さい国はいくつもの大きな国を競わせて、そのうまいバランスの中で自分の生きる場所を確保しようとする」「しょっちゅう攻められてしまう半島の特徴は①大きな国と国の間に挟まれている②他の国との境目に大きな自然の障害物がない③豊かな資源や農産物、便利な港といった貴重なものがある」のあたりは的確だ。


言論、思想についても触れる。「記者に銃を向けるような国は、それよりずっと前に自分の国民に銃を向けている」「選挙という制度がうまくいく前提は、選挙の結果が出れば負けた側は不満だとしてもそれを受け入れ、勝った側は負けた側の意見も一定程度、重んじることにある。民族問題が大きい国では、なかなか民主主義は機能しない」「過去のネガティブな歴史というのは、多くのケースで今の社会問題の原因と捉えられている」などは、大人も押さえておきたい。


また、現代において「技術自体に善し悪しはない。すべては人間の使い方、付き合い方が良い結果を生み出すかどうかを決める」「『生活が悪いのはほかの民族のせいたま、自分たちの民族が一番だ』はいい加減な言い草だが、シンプルでわかりやすい」「タダで得られる情報の多くには、落ちている食べ物を拾って食べた時と同じようなリスクがある」「異常に安くて良い物は、なんらかの人々の犠牲がともなっている物」「自分が属している民族が中心となっている国に住めるというのは、当たり前のことではない」という認識も必要だろう。


地政学よりも、もっと根源的な部分にも言及する。「差別の反対語は、交流だとわしは思っている」「情報というのは集めすぎると、それは持っていないことに近くなっていく」「知識を増やすということは、だまされないように武装するということ」「好奇心を持つことは、成功の秘訣と言えよう。新しい知識を得ることは楽しいことだ。楽しいから、人は知りたいと思うのだろう」のあたりは、そもそも生きていくうえで重要。留意しておきたい。