世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】入矢玲子「プロ司書の検索術」

今年3冊目読了。中央大学職員として図書館に勤務したのち、イリノイ大学モーテンソンセンター日本人初フェローになり、日本図書館協会「日本の参考図書」編集委員を務めた筆者が、本当に欲しかった情報の見つけ方を伝授する一冊。


畏敬する先達が薦めていたので読んでみた。単純な技法の本かな、と思って手にしたが、とんでもない。非常に深く、ただググるだけの自分を深く反省するに至る中身だった。


そもそも検索については「探すことは目的ではなく手段、過程。できるだけ短時間ですませるべき。一方、検索の的確さ、広さ、深さは向上させなければならない」と定義。


検索するときのポイントとして「専門情報には、何よりも正確性が求められる。憶測や孫引きがなく、根拠が確かであることも不可欠。広い『つながり』を漠然と辿るよりも、精選整理された『かたまり』を探す方が効率的」「行き詰まりを打開するには①複数の情報源で探す②信頼できる情報源で探す③複数のキーワードで探す④思い込みを外す」「ウェブだけで検索するよりも、『紙の本とウェブを組み合わせたほうが早い』『紙の本で探す方が網羅的に目を通せる』『図書館に出向くほうがムダがない』」「モレなく探すために①自分の利用しやすい図書館のOPACで探す②思わしい結果が得られなければ、国立国会図書館オンラインを使って日本で入手できる本全体に視点を広げる③特に大学図書館の蔵書を探したい場合は、CiNiiBooksで探す④特に公共図書館の貸し出し状況まで知りたい場合は、カーリルを使う⑤特に人物や作品によって連想的に探したい場合は、WebcatPlusを使う」とする。検索キーワードの拡げ方は「①概略を調べる②ノイズの量を見る③検索結果と対話する④ヨコ(類語と表記揺れ)、タテ(上位概念と下位概念)、ナナメ(連想する関連語)にキーワードを広げる⑤あきらめずに検索を続ける⑥英語でも検索する」と提言。
他方「検索ではルートを多種多様に増やすことで意中の情報にヒットすることがよくある。そうした過程で思わぬ発見があったり、新しいテーマが見つかったりするのも検索の醍醐味である」と、偶然の大事さを強調する点は非常に共感できる。


信頼できる情報の見抜き方について「①できるだけ学術情報を活用する②信頼できるサイトを選ぶ③信頼できる出版社、著者を選ぶ④記述の正確性を見る⑤複数の情報源で確認する⑥自分自身の常識を疑う」「記述の正確性の見抜き方は、伝聞・推測表現、引用元の表記、誤字脱字」とする。
他方、信頼性の高い情報を生み出すには「複眼的に考察する、引用形式を正確にする、推測を避ける」と言われると、自分のブログも怪しいものだなぁ、と反省する。


司書の活用について「推奨する理由は①情報の案内人②創造の同伴者③よき心理カウンセラー」「司書のアドバイスの力の源泉は、勘と先端性」とは、考えていなかった視点。なるほど、と感じる。


メディアの特性については「世の中で起きていることを『知る』には新聞がベースになり、世の中で起きていることを『理解する』には書籍がベースになる」「新聞は『人間の問題』を扱い、週刊誌は『問題の人間』を扱う」「新聞や雑誌の記事は本や事典に比べて新鮮さが重視される。今日は『まだ知らないの?』と珍しがられても、明日は『まだ言ってるの?』と飽きられてしまう。そんな消費されやすい情報を多く扱うだけに、時代性、欲望、人間くささが記録されていて発想の豊かな引き出しになる。とらわれがちな『今、ここ』という枠を取り払ってくれる面白さがある」と切り分けるあたり、秀逸だなぁと思う。


その他、心に残る「選書の技量を養うには、各ジャンルの名著を読みまくれ」「あると信じれば見つかるわけではないが、あると信じて探さなければ見つからない」「イノベーションに必要なのは人が交錯する場」のあたりはいいコメント。とても納得できる。


筆者は、司書という立場から「図書館は膨大な時間とコストが蓄積された知的インフラであり、教育と同じように国家百年の計に位置づけられる。計画的、永続的に築いていく文化事業であり、有料化して儲けるという話とは次元が違う」「情報は万人に平等に無償で開かれるべき。情報の平等が健全な競争の土台になる。図書館はその中心的役割を果たしてきた」と強く主張。その心掛け「知への畏敬の念を伝承する。知は面白くて楽しく、軽やかに分け入っていけるものだと理解してもらう一方で、先人の思索や研究に畏敬の念を持ち、自分たち一人一人に知を発展させていく責務があることを自覚してもらいたい」は、本当に崇高だと感じる。


本当にいい本に出逢うことができた。「われわれは情報に不足しているのではなく、見過ごしているのである」という感覚を、大事にしていきたい。