今年23冊目読了。日本大学芸術学部教授にして、西洋美術史を専攻する筆者が、西洋絵画における「お約束」の決まり事を紹介する一冊。
単体の書籍として見るより、様々な絵画の鑑賞の際に参考書、いや辞書的に使うべき本というところか。初心者にもわかりやすく書いているのは好感が持てる。
アトリビュートなんて言葉は初めて聞いたが「アトリビュートとはだれが見てもわかるように決められた、一種の約束事としての目印」「例えば、薔薇というアトリビュートは、『私はヴィーナスですよ』という名札のような役割を果たしている」と説明されると、なるほどと感じる。となると、「アトリビュートを認識することは、西洋美術を理解するための、ひとつのきっかけとなりうる」も納得できる。
西洋絵画の楽しみ方として「作品を眺め、鑑賞するときには、西洋美術の主題や寓意を扱う図像学の文献を使いこなすことがひじょうに重要である。なぜなら、それが作品の『読み方』のひとつの有効な方法となりうるからである」「美術館に無数にある作品をただ漫然と眺め歩くのではなく、ひとつの作品をじっくり観察する。そして部分に着目する。これがまずは基本である」なんて、まったくイメージもしたことがなかった。美術鑑賞とは高尚な趣味であることが、このあたりからもうかがえる。
具体的には「ヴィーナスの手には薔薇、聖母マリアには百合、殉教者には棕櫚。コンパスは正義、砂時計は死…」など、知らなければまったく意味不明(というか気にも留めない)ようなルールがあったということを知り、本当に驚くばかり。とうてい頭に入れ切ることは不可能であり、その意味でも、辞書的に使うべき本なんだろうな。
「なによりもまず、作品をじっくり眺めてほしい。なにが描かれているのか、ひとつひとつを確認しながら考えることが大切である」という筆者の論を俟つまでもなく、絵画鑑賞は知的労働ともいうべきものであることが、この本を読むと感じさせられる。そして、それだけのアトリビュートを織りなしてきた西洋美術の積み上げの重厚さを感じずにはいられない。