世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】崎谷実穂、柳瀬博一「混ぜる教育」

【読了】今年31冊目読了。フリーランスライターと、日経ビジネス チーフ企画プロデューサーの筆者が、80か国の学生が学ぶ立命館アジア太平洋大学APUの秘密を明かす一冊。


自分としては「名前は聞いたことがあり、凄いらしい」という程度の知識であったが、この大学は本当にすごい。別府市の、さらに山腹にキャンパスがあるなんて、そしてそこがグローバル大学となっているなんて、本当に驚きだ。


混ぜる、ということについては「国際化、グローバル化とは、世界と日本を混ぜること、世界と日本が混ざること」「混ぜるというのは混沌を認めることだ。ある意味でマニュアル化、定型化を拒否することだ。だから常に緊張を強いられるし、常に手間がかかる。しかしそれこそがグローバリゼーションであり、多様性を認めること」「変化の激しい場所で活躍するために必要なものは専門知識・専門能力と、異文化への適応力」と、その意味を鋭くこちらに迫ってくる。


また、一般的なイメージと逆説的な見解として「地域に溶け込んだ人間の方がグローバル社会で尊敬される存在になるはずです。見知らぬ土地を愛することができると、見知らぬ相手を理解できるようになり、まさにグローバル化の基本となります」「インターネットが情報源の中心となる今だからこそ、常に批判精神を持って多面的に情報を集め、考える癖をつける」「真剣に反対していた。それは軽く賛成している人の何倍も考えてくれていたということだ」というのは、本当に肝に銘じておきたい。


建学の苦労、工夫、そこでなされる空気感などはぜひ一読いただきたいのだが、今までのお仕着せの教育って何なんだろう?と揺さぶられる体験は、なかなかできるものではない。そして、それを実現させるための組織論もまた面白い。「トップのぶれない決意はとてつもない迫力でありエネルギー」「事業は休まず次々展開したほうがうまくいく。一度立ち止まると、また走り出すのは大きなエネルギーが必要となる」「協力し合うというマインドセットを構築するには、話す機会を設ければよい」のあたりは、大学の話というより経営の話だ。


「分けるを突き詰めると、時として実社会とも分かれすぎてしまう」「混ぜることができないのは、単純に大変だから」と、従来型に固執すると置いて行かれてしまう。APUが目指しているように「何が正しいかじゃなくてどうすればお互い納得できるか」「どんな学生でも学ぼうとする気持ちを持って経験を積めばガラッと変わる」「ストレスに直面すると、人は自分で考えるようになる。手持ちの駒でなんとかしようとし始める。そこで初めてお互いが腹を割って話し合い、アイデアを出し合って、ピンチをチャンスに変えていく」「ひとは、上から罰則を設けられて禁止事項を押し付けられるより、自分が主体的に関わってつくったルールをちゃんと守るほうが気持ちいい」など、人間の行動特性を理解しながら成長していきたいものだ。