世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】石弘之「感染症の世界史」

今年69冊目読了。朝日新聞編集委員から国連環境計画上級顧問、東京大学大学院教授などを経て、英国ロイヤルソサイエティ会員になった筆者が、人類と病気の果てしない戦いを書き記した一冊。


2014年に書かれた本だが、2021年、コロナ禍に苦しむ中で読んでみると、だいたい予言されていたんじゃん!!と思うくらいに「感染症」についてしっかり書かれていて驚く。そして、いざ自分の身に降りかからないと真面目に考えない、という人間の罠に自分もすっぽり嵌まり込んでいたんだな、と痛感する。コロナ禍がなければ、まぁまぁ手にすることすらなかった本だろうからなぁ。


そもそも、なぜ病気になるとこんなに苦しいのか。「病気の不快な症状と忌み嫌っているものの多くが、実は進化の途上で身につけた体の防御反応であり警戒信号。『発熱』は微生物を熱死させるか患者が衰弱死するかの我慢比べ。『せき』『吐き気』『下痢』は病原体を大概に排出する生理的反応、『痛み』『不安』は病気の危険信号」と言われると、なるほど納得だ。そして、ウィルスが凶悪化するのは「動物から人間に飛び移ったとき」「免疫力が低下しているときやストレスでホルモンバランスが崩れているときなどにウィルスが感染すると、そのまま居着いてしまう」と指摘する。


人間が感染症に苦しむようになったのは、定住社会の発達にあるとしたうえで「各世紀にはそれぞれの時代を背景にして、世界的に流行した感染症があった。13世紀のハンセン症、14世紀のペスト、16世紀の梅毒、17~18世紀の天然痘、19世紀のコレラ結核、20~21世紀のインフルエンザとエイズ」を挙げる。よもやまさか、この6年後に21世紀の感染症としてCOVID-19が出てくるとは…
そして、大流行については「過密社会の存在を抜きには考えられない」「移動手段が、徒歩、馬、帆船、汽船、鉄道、自動車、飛行機と発達するのについれて、これまでにない速度と規模で人と物が移動できるようになり、便乗した病原体も短時間で遠距離を運ばれる。しかも、人類は都市で密集して暮らすようになり、感染する側には絶好の条件が整った」と述べている点は、まさに2021年を生きていると痛感せざるを得ない。しかも、その生活スタイルを変えるのは非常に困難…。


そして、21世紀のコロナ禍で押さえるべきは「感染症の歴史のなかで最大の悲劇になったのは、20世紀初期の第一次世界大戦の末期に発生した『スペイン風邪』」。これは、インフルエンザのA・B・C型のうちA型であり「その後パンデミックを起こしたウィルスは、すべてこのタイプ」という記述を見ると、何とかならんかったかなぁ…と思う。
その念がさらに強くなるのは「今後の人類と感染症の戦いを予想するうえで、もっとも激戦が予想されるのがお隣の中国と、人類発祥地で多くの感染症の生まれ故郷でもあるアフリカであろう。いずれも、公衆衛生上の深刻な問題を抱えている」「特に、中国はこれまでも、何度となく世界を巻き込んだパンデミック震源地になってきた。過去3回発生したペストの世界的流行も、繰り返し世界を巻き込んできた新型インフルエンザも、近年急速に進歩をとげた遺伝子の分析から中国が期限とみられる」という筆者の予測。まさにドンズバで正解じゃないか!2020年、武漢ウィルスの情報を真面目にとらえず、春節の観光客を受け入れ続けた安倍政権の愚かさを感じずにはいられない。すでに、予測されていたのだから!!


感染経路についても「20世紀前半の集団発生は、学校や軍がその温床になったが、21世紀後半は高齢者施設がそれに取って代わるだろう」「国連などの予想では、世界的な高齢化で『非衛生な環境に住まざるをえない』『医師にかかれない』『栄養が十分とれない』『看病するものがいない』といった貧しい高齢者層が厚くなっていく。高齢者は外出が減って孤立しがちになり、他人から免疫を受け取るチャンスも少なくなる。発病しやすくなり、発病すれば重い症状に陥りやすい」と、これまたCOVID-19そのままである。緊急事態宣言とか幾度も繰り返す愚かな対応よりも、この本を読んで考えろ、と言いたくなる。


WHOとテドロスは今回のコロナ禍でまるで信用ならんなぁ、と思っているが「エボラ出血熱の時、国境なき医師団が2014年3月末の時点で世界に向けて警告したのに対し、WHOは8月に入ってやっと非常事態宣言をした。これは、2009年の新型インフルエンザの流行で、WHOは警戒レベルを最高の『フェーズ6』を宣言した時のトラウマと疑われても仕方ない。このときは、結果的に弱毒性のインフルエンザで大流行にはならず、WHOの判断ミスが俎上にのぼった」という記述をみると、判断ミスにはそれなりの経緯があるんだな、と感じる。また、ワクチン開発の遅れについても「実は、このとき非常事態宣言を受けて、各国が大手製薬会社のワクチンを競って輸入したが、多くがむだに終わった。日本は2500万回分を320億円で輸入したが、最終的に1600万回分が廃棄処分にされ、800万回分は90億円の違約金を払って解約した」ということを知ると、人間は体験という記憶の罠から逃れられない、ということを痛感する。


すべての人が一読する価値がある。感染症というものが猛威を振るった時の凄まじさは、2021年を生きているすべての人が痛感しているのだから。