世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】渡辺和子「置かれた場所で咲きなさい」

今年64冊目読了。ノートルダム清心学園理事長の筆者が、生きること、老いること、愛することなどをクリスチャン・教育者として語るベストセラー。


今更ながら、娘が希望して図書館で借りてきた本を又借りしたのだが、確かにこれはいい人生訓が多く含まれていると感じる。無宗教故、いささか「神様が…」臭が強すぎる点は自分にとっては苦手な感じではあるが…


標題は、やや言葉足らず、かつ何となく抹香くさい感じがするが「置かれたところで自分らしく生きていれば、必ず『見守っていてくださる方がいる』という安心感が、波立つ心を鎮めてくれる」というのが本意なんだろうな。


そして、頑張ることを無理強いすることがないのがいい。「結婚しても、就職しても、子育てをしても『こんなはずじゃなかった』ということが、次から次に出てきます。そんな時にも、その状況の中で『咲く』努力をしてほしいのです。」としつつ「どうしても咲けない時もあります。雨風が強い時、日照り続きで咲けない日、そんな時には無理に咲かなくてもいい。その代わりに、根を下へ下へと降ろして、根を張るのです。次に咲く花が、より大きく、美しいものとなるために」と述べている点は、救いになる。


人生への構えについて「変えられない現実はどうしようもない。無理に変えようとすれば、心は疲れ果ててしまう。ならば、その悩みに対する心の持ちようを変えてみること。そうすることでたとえ悩みは消えなくとも、きっと生きる勇気が芽生える」「時間の使い方は、そのままいのちの使い方になる」「希望には叶わないものもあるが、大切なのは希望を持ち続けること」と述べるあたりは、自身が傾注しているU理論とも通じるものがあり、肌合いのいい納得感が得られる。


生き方といいつつ、リーダー論に通じるところも。「委ねるに際して、1)相手を信頼しなければいけない2)決して”丸投げ”ではなく、要所要所でチェックをして、委ねっぱなしでないことを相手にもわからせる3)委ねた結果がよかった時は、その人の功績とするけれども、結果が悪かったときは自分が悪者となることを恐れない」「信頼は98%。あとの2%は相手が間違った時の許しのために取っておく」「現状よりもよくなる状態を”発展”と呼ぶのだとすれば、少なくとも人生においては、順風満帆の生活からよりも、山あり、谷ありの人生、失敗もあれば挫折も味わう、苦労の多い人生から立ち上がる時のほうが、発展の可能性がある」あたりは、噛み締めたいところだ。


笑顔の効用についても「1)物事がうまくいかない時に笑顔でいると、不思議と問題が解決することがある2)自分自身との戦いの末に身についたほほえみは、他人の心を癒す力がある」として「不機嫌は立派な環境破壊だということを、忘れないでいましょう」と提言する。


中年にさしかかってくると、どうしても「老い」を感じずにはいられない。そんな中で「何かを失うということは、別の何かを得ることでもある。若い時には、できていたことができなくなる。それは悲しいことだけでは必ずしもなくて、新しい何かを創造してゆくこと」「老いるということにおいて、一番大切な仕事は、ふがいなくなった自分を受け入れて、いつくしむということ」はけっこう切実に胸に迫る感じがある。


そして、あわただしい時代だからこそ「文明の利器は、確かに『便利』『安楽』『スピード』をもたらしたが、その反面、人間から『待つこと』『耐えること』『静かに考えること』といった習性を奪ってしまった」「まず考えるということ、次に感じる余裕を持ち、その後に行動するという順序こそが、『一人格(いちじんかく)』としての生き方」ということは心に留めおきたい。


説教、説法臭さは鼻につくが、それでもさらりと読めるし、確かにヒットしたことがよくわかる。重いテーマを軽く描き出す筆致は非常にうまいので、一読の価値はあると感じる。