世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】高崎卓馬「表現の技術」

今年52冊目読了。電通のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターである筆者が、「グッとくる映像にはルールがある」というからくりを解き明かす一冊。


プロということについて「あらゆるものに基本というのは存在する。基本のスキルをもたないプロフェッショナルなど存在するはずがない。そこから逃げて自分の感性だけを信じるものが果たして本当にプロだろうか。感性や個性はそれをどんなに無視しても絶対に表現に出てくる」としつつも「他人の用意した教科書的なものを勉強みたいになぞっても、自分にフィットした作り方は手に入らない。自分が使える文法を発見する。それを使ってより高い次元の答えをつくる。そうやって自分のスキルをのばすことは、プロとして当然やるべきこと」と相反するような記述はあるものの、逆にその両輪を回さないといけないんだろうな、ということは直感、理解できる。


人の感情の動きとして「人は笑う前に必ず驚いている」「起承転結を壊す作業は、時間軸を操作するということ。結論を見せることで、その原因を知りたいという欲求をつくる。その欲求が『面白い』という感覚をつくりだす」「すでにある価値観や出来事をそのまま使っても、それはそれ以下でもそれ以上でもない。ところがそこにズレを入れると、企画する人間の意図を面白く発生させることができる」「物語を進行させるのは、対立がもたらす『葛藤』。物語はシナリオではなく、登場人物の『葛藤』が絡み合って進むもの」と分析するあたりは、非常に鋭いなぁと感じる。


表現をするうえで気をつけねばならないこととして「『つくっている人間がはしゃいでいる』ことは、観客の興がさめる大きなポイント」「企画する人間の都合が見えるものは面白くない」「オムニバスは伝えるべきものが薄くなるだけだし、観客も公約数的な物語を見たいとは思わない」「企画をしているときの『達成感』は、脳の動きを鈍らせる」を挙げる。


表現をするうえで大事なことは「みんなで考えた表現ではなく、ひとりの思いが結晶化した表現のほうがはるかに強い」「自分が正しくミッションを発見しているかどうかは、『表現のイメージ』がそこにすぐついてくるかどうか、で判断することができる」と述べる。
具体的に表現を強くするには「左脳で考える癖をもつ。笑いを笑いながら作らない。泣けるものを泣きながらつくらない。冷静に相手の感情を想像しながら計算をしていく。そしてその表現が感覚的に『きてる』ものになっているかどうかは、右脳に判断させる」「疑う。それは表現をより強くするための大切な行為」「違和感はとても大切な感覚。それは、自分の考えたものを客観的に見つめるための入口」「選択肢はできるだけ難易度の高いほうを選ぶ。リスクの高いものを乗り越える。それができると表現は凡庸さから抜け出すことができる」とする。


2012年に出版された本だが、述べているポイントは十分に役に立つ。人の心に響く表現が求められる「広告」のからくりをよく理解できるし、それなりに汎用性もあるように感じる。筆者の作品自慢がやや鼻につくが、そこを読み飛ばせば教訓としては十分に使えると感じた。