世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】クリスティーン・ボラス「シンク・シビリティ」

今年39冊目読了。ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授の筆者が、礼儀正しさこそ最強の生存戦略であるとの主張を根拠をもって述べる一冊。


さまざまに示される根拠が、「あぁ、それ、どっかで読んだことがあるな」と思うのは、自分がその方面に興味があるからだろう。基本的には、平易で読みやすいと感じる。


礼儀正しさについて「重要なのは、された方がどう感じたかである。尊敬や配慮を欠く扱いを受けた、と相手が感じるかどうかだ。言動が相手の目にどう映ったかが問題となる」「礼節ある言動とは、つまり相手を丁重に扱う言動ということだが、必ず心から相手を尊重する気持ちがないとうまくはいかない」とする。


礼節が悪化し続けている理由として「グローバリゼーション、世代の違い、職場環境とそこでの人間関係の変化、発達したテクノロジー」があるとし、「人、企業が無礼な態度によって被る損失は、一般に思われているよりはるかに大きい。理不尽な扱いを受けた人は、精神状態を正常に戻すのに力を使うため、集中力、注意力を削がれる」と述べる。マキャベリの「愛されるよりも怖れられるほうがはるかに安全だ」という主張は現代には当てはまらないという言説は、なかなか面白い。


礼儀正しさはなぜ有効か。「私たちの努力次第で、無礼な態度にはかなりの程度、対抗できるのだ。礼儀正しく思いやりのある態度に接すると、そのあとには優しさ、喜びが周囲の多くの人に広がっていく」「他人の印象を大きく左右するのは『温かさ』と『有能さ』」という筆者の指摘は、なるほど理解ができる。


では、どうすべきか。「自分の欠点、改善すべき点を知るために、他人からフィードバックを得る」「『話す:聞く=1:2』がベスト」という原則を押さえたうえで「礼節ある態度を取るためには、まず、微笑む、相手の存在を認める、話を聞く、という3つの基本動作を実践する必要がある」という基本があり、そのうえで「①与える人になる②成果を共有する③誉め上手な人になる④フィードバック上手になる⑤異議を共有する」とするべきだ、と主張する。「無意識の偏見を抑制するため、相手と自分の共通点に注目する」「あなたの遺す功績は、石碑に刻まれるのではなく、他人の人生に織り込まれるのだ」のあたりは、なかなか意識するのが難しいが、これは効果がありそうだ。


職場、会社としては「社員の行動を矯正するには、そのためのフィードバックを与えることが必要。良くない行動が見られたら即座に、確実に矯正しなくてはいけない」「その社員がいかに優秀でも、態度が悪ければ手加減をしてはいけない。また、顧客、供給業者など、社外の人間が社員に無礼な態度を取ることも許してはいけない」という姿勢が大事というのもうなづける。


また、現実論として、無礼な人に狙われたらどうするか。「過去ではなく、未来に目を向ける。それは新たに何かを学び、自分を成長させることに力を入れることでもある。そうしていれば、自信がつき、少しのことでは動揺しなくなる。①目標を定め、進歩を実感する②自分を成長させてくれるものを見つける③メンターの助けを借りる④食事、睡眠、運動、マインドフルネスを活用する⑤仕事に意味を見出す」を提案する。


筆者の主張「自分自身、また自分の仕事や、勤務している会社を大切にする気持ちさえあれば、必ず改善を図ることができる。決して先延ばしにしてはいけない。今日から始めよう」には、勇気づけられる。筆者が引用したこの一文もまた、意義深い。興味深く読める一冊だった。


『人が自分自身のありのままの姿を見つめる能力、勇気を持たない限り、変化は決して起こらない』
ーブライアント・マッギル