世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】脇村孝平「10の感染症からよむ世界史」

今年37冊目読了。大阪経済法科大学経済学部教授の筆者が、歴史を大きく変容させた感染症の蔓延と収束、社会経済にもたらした影響を解説する一冊。


文庫本で、医療の専門家でないからこそ、その社会的影響に着目して書かれており、興味深い。


感染症を引き起こす主要な病原体「細菌」「真菌」「寄生虫」「ウィルス」があり、それぞれの感染症が与えた影響というのがなかなか面白い。
●ペスト:14世紀の流行後に、第一に職人・商人や農民の地位の向上、第二にカトリック教会の権威の失墜を口火とした宗教改革、第三に身分や家柄によらない新しい人材の登場を招く
●インフルエンザ:スペイン風邪は、世界経済全体に与えた影響は意外なことに、ほとんどなかった。流行の時期が第一次世界大戦と重なったことがある。
コレラ:公衆衛生の重要性を認識させることになり、1865年の下水道システムが現代のロンドンの排水処理システムの基幹となっている。
マラリア:特効薬のキニーネが普及した19世紀後半以降、西洋列強によってアジア、アフリカの植民地化が本格的に進められる。
赤痢:1904年に起こった日露戦争で、正露丸赤痢チフスの予防薬として兵士に支給され、効果を発揮する。その後、下水道整備で患者が減少。
結核:近代におけるサナトリウムの発達を生み、鉄道や蒸気船の普及によって交通網が整備されて観光業が盛んになり、都会を離れて自然の中に美や安らぎを見出す価値観が広まった。
天然痘:WHOの活動を軸とし、国際協力で撲滅を実現した。
●黄熱:ロックフェラー財団が、富の社会還元と税金対策を兼ねて支援をしたことにより、ワクチンが完成した。
チフス:シラミ除去という予防措置が成功し、世界的には第二次世界大戦以降は大きな流行がなくなる。
●梅毒:15世紀前後のルネサンス期におけるイタリアやフランスにおいては、梅毒によるあばたが、美男美女の条件の一つと認識されることもあったが、近代になると忌避される。


当然、2021年においては、新型コロナの影響がどうなのか?というところが興味の中心となるのだが、筆者の「私たちが現在その渦中にいる感染症の経験は、つまるところ私たちの『死生観』を問うている」「私たちが将来を見通すための一つの手立ては、歴史を振り返りつつ長期的な視野を持つこと」という主張が、ひとつのカギになるかと思う。