世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】小林雅一「AIの衝撃」

今年36冊目読了。KDDI総研リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授の筆者が、人工知能についての予測をしながら、AIは人類の敵となるのかを考察する一冊。


2015年発刊であり、情報はかなり古いが、基本的な考え方は大きく変わるものではない。


そもそもAIというものについては「AIのベースとなる機械学習とは、人間の知能を、コンピュータが4得意とする大規模な数値計算へと巧妙にすり替える手段」「膨大な数のユーザーが生み出すビッグデータをAI、つまり機械学習で分析すれば、個々の消費者に向けて精度の高いターゲティング広告を流したり、その人が好むであろう音楽や映像コンテンツ、さまざまな商品などをレコメンドして売ることができる。最終的には全く新しい製品やサービスの開発につなげるんだお、無限のビジネスチャンスが広がる」と説明する。


AIを使う際の課題としては「①機械への権限移譲をどう行うか②ロボットの行動基準や倫理観をどう決めるか③利便性とプライバシーのバランス④監視社会の到来にどう対処するか」を挙げる。


そして、ロボット開発の流れについては「大方の画期的な発明においては、自然界の生物をまねるよりも、全く別の工学的な仕組みを採用するほうがうまくいった。ところが、AIは、それが当てはまらない」「従来の産業用ロボットには、定型的な作業を繰り返し行うための精密な制御・駆動系の技術が求められた。サービスロボットは、もっと人間に近い柔軟で器用な動作をするための高度な認識系の技術が必要」「次世代ロボットとは実はユーザーとの間で情報をやり取りする『次世代の情報端末』」と読み解く。


では、人間の可能性はどうなるのか。「最後に残された人間の聖域は、高度な創造性と社会的知性を必要とする職業」「創造性とは、全くのゼロから何かを生み出すことではない。むしろ幅広い経験を通じて目撃したり学んだりしたさまざまな事柄、つまり一見すると無関係な事柄の間に他者が気づかない関係性を見出し、これに基づいて別々の事柄を一つにつなぎ合わせる能力」として「創造活動の水準を左右するのは、頭の中に蓄えた過去のデータの量と、それらをいかに複雑かつ精巧に組み直すことができるか、つまりデータ再構成の能力にかかっている」と言及する。


人間がAIに使われるのではないか、という懸念に対しては「人間がAIを上回るのは、ある能力において自分よりもすぐれた存在を創造し、それを受け入れる先見性と懐の深さ」と述べ、未来の明るさを考える結論になっている。


新書で、ざっくりと流れを押さえるにはちょうどいい。AIは今後の社会とは切り離せない存在であり、ブラックボックス化することなく、一定の知識は持っておいたほうがいいだろう。その意味では、わかりやすい入門書だ。