今年30冊目読了。お笑いコンビ「オードリー」のツッコミ・引きこもり担当の筆者が、休みが取れて無理やり一人でキューバに弾丸旅行をした紀行文。
ひょんなことから手にすることになり、旅エッセイをさらっと読むのもいいか、と思って読み始めてみたが、なかなか筆致が優れていて、面白い。
現状の生活について「勝っても負けても居心地が悪い。いつもどこでも白々しい。持ち上げてくるくせに、どこかで足を踏み外すのを待っていそうな目。祝福しているようで、おもしろくなさげな目。笑っているようで、目が舌打ちしている。だから、ぼくは仕事の関係が好きだ。お互いに『良いもの』を作るという共通目標がある関係性には意外と白々しさがない」とし「5日間、この国の価値観からぼくを引き離してくれ。同調圧力と自意識過剰が及ばない所までぼくを連れ去ってくれ。ぼくは今から5日間だけ、灰色の町と無関係になる」と旅立つ。
キューバでの出来事を面白おかしく書いているところもいいのだが、「自分の脳細胞がこの景色を自由に、正直に、感じている。なぜなら、キューバに一人で来たからだ」「怖ろしく集中している男はどうしたってかっこよく見えてしまう。ぼくはきっと命を『延ばしている』人間の目をしていて、ゲバラやカストロは命を『使っている』目をしていた」「葉巻を吹かしながら明るいキューバ音楽を聞く。その姿を日本で見られたら、みんなに笑われるだろう。だけど、みんながいないからぼくはまっすぐに楽しめた」などは、かつて一人で海外をふらふらしていた経験のある身としては、非常に心に染み入るし、共感できる。
キューバを満喫しながら「東京にいると嫌というほど、広告の看板が目に入る。それを見ていると、要らないものも持っていなければいけないような気がしてくる。必要のないものも、持っていないと不幸だと言われているような気がぼくはしてしまうのだ」「もしかしたら、出不精ではなくて東京に行きたい場所がないのかもしれない。出掛けたい場所があることって、人を幸せにするんだな」と不満を述べる。
しかし、帰ってくるときには「この目で見たかったのは競争相手ではない人間同士が話しているときの表情だったのかもしれない。ぼくが求めていたものは、血の通った関係だった」「ここで生活し続ける理由。それは、白々しさの連続の中で、競争の関係を超えて、仕事の関係を超えて、血を通わせた人たちが、この街で生活しているからだ」と考え直す。或る意味、旅の醍醐味というのは、日常の見つめ直しなのかもしれない。このへんも、『海外一人旅経験者』としては、とてもよく理解できる。
意外に(失礼!)深い中身で、さらりとしながらも面白く読めたのだが、実は一番響いた言葉は「知ることは動揺を鎮める」だった。これは、いろいろな場面で使っていきたい。