世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ジュリアン・バジーニ「100の思考実験」

今年25冊目読了。イギリスの哲学誌「The Philosophers' Magazine」編集長である筆者が、「あなたはどこまで考えられるか」というテーマで100題の思考実験を繰り出して、その問いの真意を読み解きながら考えを深めることを意図する一冊。


小4の娘が図書館で予約したものの、「あまりに難しすぎる」とお鉢が回ってきたのだが、なるほど、これは問題設定がなかなかハードル高い…歴史背景への知識が必要だったり、これは子供にはちょいと無理だな。というか、大人でも十分に難渋するレベルだ。


コロナ禍での日本の政治家の右往左往を見ていると「自分の利益を正当化する考え方のほうが、そうでないほうより説得力があるように見える。このバイアスを断ち切って偏りなく考えることは、きわめて難しい。結局、そうはしたくないのだから」「持ち合わせの信念に一致しないというだけで、ある考えを斥けることはできない。むしろ、そうするには、きちんとした理由が必要なのだ」「誰かにアドバイスを求めることで、自分自身の責任が減ると思うなら、それは甘い考えだ。実際は、アドバイスを求めることによって、責任を負うべき範囲が微妙に変わってくる。純粋に自分がしようと決めたことだけでなく、アドバイザーを選んだことや、そのアドバイスにみずから従ったことに対しても責任を負ってしまうのだ」のあたりを伝えてやりたくなる…しかし、それは取りも直さず有権者である自分にも返ってくるわけで。自戒せんとなぁ。


自己というものについても「何年も前の自分と今の自分が同じ人間かどうかについて、正しい答えは存在せず、それはわたしたちが自分自身の何に関心を向けるかによるというべき」「わたしたちが生きのびるのに必要なのは、時間を通して同一性が維持されることではなく、現在の自分と将来の自分に正しい継続性があることなのだ」「わたしたちの振る舞いはその多くが、両親と社会全体から、そのときどきに肯定され否定されることで育まれてきた習慣のようなものだ。要するに、わたしたちは、生まれたときから少しずつ洗脳されているのだ」などの問題提起を投げかけてくる。


実用的なところでは「与えられた人生をせいいっぱい生きる理由が何もないなら、生きていることはうんざりするような重荷になるのではないだろうか?おそらく、わたしたちは『もっと時間があったなら』と考えるのをやめ、その代わりに『与えられた時間をもっとうまく使えたら』と考えるべき」「新しいものはすでに知られているものとの組み合わせによって創りだされる。ひとつひとつの要素をどう組み合わせるかで、斬新さが生まれるのだ」「たとえ損をする不合理性をある程度伴うとしても、信頼というのは、人生から最大の利益を得るために必要なものだ」「哲学や古典文学の内容を知っているだけでは、知性や知恵の指標にはならない。大事なのは、わたしたちがその知識を使って何をするか」「もっとも深い信頼というのは、たとえ、相手が約束を守ってくれたかどうか確信できないときでも、進んで相手を信用することに他ならない」あたりは、意識すべきだと感じた。


とにかく難解な問題が多く、非常に読み疲れた…しかし、訳者が述べている「既成の概念や価値観を根底から揺さぶられるのは、とても心地のよいものだ。ふだん考えてもみないところに問題を見出し、深淵へと導くのが哲学の醍醐味といえるだろう」は本当にそう感じる。ただし、読むなら心したほうがいい。かなり疲弊すること間違いなし、である。