世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山本尚「日本人は論理的でなくていい」

今年17冊目読了。中部大学教授、名古屋大学特別教授、シカゴ大学名誉教授にして、ノーベル賞候補の現役科学者である筆者が、日本的感覚を磨くことを推奨する一冊。


傘寿を超えた父親が送ってきた本なので読んでみたが、賛同できる部分と「うーん…」というトンデモ部分がない交ぜになっていて、なんとも微妙な読後感だった、というのが正直なところ。


日本人の特殊性について「日本人の民族性は内向的で、感覚型で受け止め、フィーリング型で対処すると言われている。面白いことに、このタイプを持つ民族は世界で唯一日本人だけだ」「科学技術において飛翔した発明発見をするには、論理から離れた思い切った仮説が必要となる。こうなると論理的なアプローチの得意な民族は、その論理性がかえって障害となるが、幸いなことにこの論理性が日本人にはほとんどない」と述べる。が、正直、このへんがトンデモ理論だなぁとしか思えない。飛翔した発明発見が日本人の得意技なら、じゃ、どうして太平洋戦争で(国力差の問題ではなく、発明の分野において)アメリカに完敗したんだ?と問いたくなる。過去分析もないし、「日本人の独特の民族性を100%活かすことで、人生の様々な競争に勝つことができ、今後の展開が変わってくる」は、ともすれば選民思想に繋がりかねない、非常に危険な短絡思考だ。


基本立脚スタンスがそんなところにあるから、「内向型の人は、物質から自由になろうとし、他人と一つに溶け合おうとすると言われている。対立でなく、和合や融合へ向かう。外向型の民族が物質を大切に考えているのとは全く異なっている」「外向的な民族の自宅は綺麗で家の外は汚い。一方、内向的な民族の自宅は乱雑だが、外は綺麗である。道を5分歩けばどのタイプの国かがわかるのはそのためである」なんていう断言が生まれてくるし、「他国の人と接する際に私たちは、その人の民族性を十分に理解して付き合うことで、良い所を引き出し、100%自分に還元することが可能だと認識すべき」と言われても、違和感しか残らない。もちろん、民族性というのはあるが、それを織りなす歴史(=過去)はそんなに単純ではない。パターン化で人を情報処理していくのは危険だ。


とはいえ、さすが一流の研究者、いいことも言っている。「どんな人でも長所があり、気に入らない人の、あなたにとって気に入らない個性は皆さん方の才能を開花させるカギだと思う」「嫌いな人は自分と違う大切なものを持っていることが多い。そこからこそ、うんと盗もう。これで、あなたはびっくりするくらい成長できる」のあたりはそうだなぁと感じるし「集中しているからこそ、非集中のスイッチを入れることができる。これによって素晴らしいアイデアが不意に出てくる」「今を大切にして、過ごすことこそ生きること」「平易な言葉で話し、聞いている人にわかっていただけているかをいつも念頭におく必要がある。スライド1枚で1つの項目を説明できれば十分」は、ビジネスにも活用しやすい。


いろいろ思うところはある本だが、人の育成について「問題の答えを出すことには習熟しても、問題そのものを作り上げる能力とは全く違う。課題作成能力は創造力の賜物であり、これを育成することこそ、次世代の指導者を作ることになる」「親や先生から見える幸せな道は、その子にとっての『もっとすごいこと』に踏み出す力を奪っている。年寄りは保守的になり、そうしたわずな成功の可能性の存在を認めたがらない。人は皆、大きな可能性を持っているのだから、それを大切にすることこそが先生や親の役割ではないだろうか」はいい点を突いていると思う。


要素はいいのだが、思想がどうにも気持ち悪い。あまり読むことはお薦めしたくない一冊。